これらは、効果予測の精度を高める方向の研究だが、これに対し抗体自体の効果を高められないかという方向の研究も進んでいる。特に、癌や、癌抗原を提示する細胞が発現するPD-L1に対する抗体(抗PD-1治療と同等の治療として海外では利用されている)に、免疫システムを強めたり、癌の悪性度を抑えるような分子を結合させ、チェックポイント治療効果を高める試みだ。
今日紹介するメルク傘下セロノリサーチ社からの論文はPD-L1に対する抗体のC末端にTGFβ受容体を結合させることで、動物実験だがガンに対する免疫を著明に高められるという研究で1月17日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Enhanced preclinical antitumor activity of M7824, a bifunctional fusion protein simultaneously targeting PD-L1 and TGFβ(PD-L1阻害と、TGFβ阻害の2種類の機能を持つ融合タンパク質は抗腫瘍効果が亢進している)」だ。
この研究は動物を用いた前臨床研究なのだが、すでに安全性を確認する第1相の治験は終了し、論文になっている。さらに固形癌に対する治験が我が国の九州がんセンターなど15施設が参加して始まろうとしており、患者さんのリクルート中だ。他の国でも、準備が行われている。すなわちこの論文は、患者さんに説明するためには大変役にたつ論文として使える重要なデータになっている。
さて結果だが、まずこの融合抗体がPD-L1と3種類すべてのTGFβを阻害できるという基礎データを示した上で、マウス大腸癌、乳がんなどで抗腫瘍効果を確かめ、長期効果と共に、転移も抑制できることを示している。マウスの実験だが、データは極めて説得力のあるデータだ。
次にガン免疫機能について調べ、キラーT細胞と共にNK活性も高まっていることを示している。詳細を省くが、腫瘍周囲のCD8浸潤の数を見ると、驚くべき効果であることがわかる。さらに都合のいいことに、ガンの周りの線維芽細胞増殖を抑制することができる。また、放射線治療や抗がん剤治療との相性のいいことも示している。これらはすべてTGFβ抑制による結果として説明がつく。
現在、TGFβに対する治療も単独で投与が進められいるが、TGFβ自体が多彩な生物活性を持つため、予想しない副作用などが出るなど道は厳しい。ところが、PD-L1に対する抗体でTGFβ阻害作用が腫瘍周辺に限局されることでTGFβ阻害剤の持つ問題を大きく解決することになるわけだ。
要するに、次世代のチェックポイント治療が始まるぞと高らかに宣言しているような論文だ。しかし治験の結果が出るまでは、前臨床研究でしかない。ゆっくり治験結果を待とう。しかし、この融合タンパク質の値段はいくらになるのだろう?心配だ。
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