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1月21日:血液によるガンの早期診断が可能になる?(Science オンライン版掲載論文)

2018年1月21日
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多くのガンは、転移が起こる前に切除することで治すことができる。ただ、早期にガンを発見するためには、内視鏡、CT、PETなど時間と費用のかかる方法が必要で、多くの人間のマススクリーニングを行うのが難しかった。それでも、胃カメラなど、これを乗り越えてスクリーニングの体制が整い、成果を上げている。とはいえ、一定量の血液を取り出して、それでガンがあるかどうかの診断が可能になることが望ましい。

これまで比較的成功しているのは、前立腺癌を診断するPSA検査で、急に上昇するとガンが疑われる。ただそれでも、確定診断にはならない。実際私も昨年の夏PSAが急上昇し、前立腺癌を覚悟したが、精密検査で無罪放免になった。

今日紹介するジョンホプキンス大学からの論文は血液によるガンの早期発見を現在利用できるいくつかの方法を組み合わせて総合的にできないか調べた論文でScienceオンライン版に掲載されている。タイトルは「Detection and localization of surgically resectable cancers with multi-analyte blood test(複数の検体に分ける血液検査で外科的に対応可能なガンを発見し種類を特定する)」だ。

実際このような試みは多くの研究室で行われている。例えば、ガンの血液診断をキーワードに検索すると、一滴の血液で13種類のガンを発見できるといった落谷さんの研究を筆頭に、新聞やTV報道が並ぶ。ただ、それぞれをよく見てみると、それぞれのグループが得意の方法だけを用いて、どちらの成功率が高いかを争っている感がある。一方、今日紹介する論文は、これまで有望と考えられてきた方法を組み合わせて、しかもステージIIまでのガンを診断するという目標に絞って検査を開発している。テクノロジーを競うのではなく、患者目線に立った研究と言える。

方法自体は独自のものではないが、それぞれの方法を早期診断という目的に絞って改良を加えている。

最初に用いるのがliquid biopsyと言われる方法だが、ガンのドライバーのみに焦点を当て、これまでのガンゲノムのデータからドライバー遺伝子変異を特定しやすい、卵巣癌、直腸がん、膵臓癌、胃がん、食道がん、肺がん、乳がんの8種類に絞って検査を開発している。

実際には16遺伝子の変異を調べる61種類の断片を用い、PCRで配列を決めている。この時、一本だけの検体で行うのではなく、一つのサンプルを複数のチューブに分けて別々に増幅することで、変異が検出される確率を高めている。

次に、様々な文献から特異性の問題はあっても、ガンの早期に遊離されるタンパク質ガンマーカーをリストアップし、その中から39種類の蛋白質を免疫的に検出する方法を開発している。

これらを改良し組み合わせた新しい方法で、約1000人のステージIからIIIまでのガン患者さんの血液を調べると、診断率が一番高いのは卵巣ガンと肝臓癌で、90%を越すが、残りはだいたい70%ぐらい、最も低いのが乳がんであることがわかった。一方、ガンを持っていない正常人では800人中8人が陽性と診断され、現在フォローアップ中だ。もちろん、今後炎症や、前癌状態など幾つかの状態で偽陽性が出ないか調べる必要があるが、まずますだ。

最後に、AIを用いて、パターン解析を行い、発見したガンの種類を当てるアルゴリズムもを開発しており、ほとんどのガンで7割程度診断が可能であることを示している。

この論文には多くの施設が関わっているが、読んでみて思うのは、皆が協力して仕上げている点だ。一方,診断法の開発ですらわが国では自分の方法が他の方法より優位であることだけを強調することに努力が払われ、皆で協力することができていない点が気になる。もちろん臨床で喜んで使われる方法でになればそれでいいが、実際にはどうなのだろう。結局診断法の開発でもおそらく研究費を独占したいというモチベーションが働く構造になっているのではないだろうか。実際には大所高所から幾つかの技術を患者さんのために組織化するための指導力が、助成を提供するAMEDなどに欲しいのだが、今の助成機関の指導者にはそのような発想はないようだ。

最後に、この検査法がいくらになるかだが、500ドルで収まると聞いて安心した。
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