今日紹介するユタ大学からの論文は石野さんたちがレトロウイルスの家畜化が決してまれな話でないことを示す研究で1月11日号のCellに掲載された。タイトルは「The neuronal gene Arc encodes a repurposed retrotransposon Gag protein that mediates intercellular RNA transfer(神経細胞が発現するArc遺伝子はレトロトランスポゾンGagを細胞間RNAを伝達する新たな目的に転換している)」だ。
この研究が着目したのは、レトロウイルスGag分子の家畜化が疑われるArcで、ショウジョウバエや四足類の脳に発現している。驚くのは、それぞれ異なるレトロトランスポゾンから独自に進化し、神経細胞特異的分子として確立している。
この研究ではまずそれぞれのArc分子がレトロウイルスGag分子のようにウイルス粒子を形成できるか、大腸菌で作らせたArc分子を用いて調べている。予想通り、ArcもC末端を介してウイルス粒子を形成する。これはオリジンが異なるマウスでもショウジョウバエでも同じで、独自の進化でほぼ同じ機能の分子が進化した面白い例であることを示している。
ここまでわかると、実際にウイルスと同じように他の細胞に感染して、遺伝子の受け渡しをするかどうかを調べることになる。結果を箇条書きにまとめると、
1) Arcが粒子を形成するとき、N末端を介して、非特異的にRNAを取り込む。また、RNAがないと正常な粒子形成は起こらない。
2) Arc粒子は他の細胞に感染し、mRNAを伝達する、
3) 脳内でArc粒子が分泌されているのを観察でき、この粒子を用いて試験管内で神経細胞へmRNAを伝達できる。
4) 伝達されたRNAは神経細胞の活性化に応じて翻訳される。
以上の結果から、Arcはシナプスで様々なRNAを隣の神経細胞に伝達し、それが興奮依存的に翻訳されることで、シナプス可塑性に関わる可能性を提案している。今後、ウイルスの感染の標的を操作する実験から、このシナリオが正しいかどうか示されるだろう。
いずれにせよ、石野さんから聞いたレトロウイルスの家畜化はかなり広い範囲で起こっているようだが、Arcを持たない種では、どのGagを家畜化しているのかなど、面白い分野になりそうだ。
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