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1月31日:パーキンソン病のL-ドーパ治療により誘発されるディスキネジアの原因究明(1月23日Cell Reports掲載論文)

2018年1月31日
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パーキンソン病の運動障害のメカニズムは複雑で、ドーパミンの分泌異常のみで説明することは難しい。例えば、先日紹介した立ちすくみでは(http://aasj.jp/news/watch/7912)、無意識に調節される運動に視覚や聴覚を介して方向性を与えることで、大きく改善する。病気が進行してドーパミンの補充療法が必要になった段階で問題になるのが、ドーパミンレベルが回復する際に起こる不随意運動で、線条体へ投射するグルタミン酸作動性の神経が興奮しすぎることによるのではないかと考えられているが、はっきりとわかっていたわけではないようだ。

今日紹介する米国エモリー大学からの論文はアカゲザルのパーキンソンモデルで線条体のグルタミン作動性の神経がディスキネジアの主役であることを突き止めた研究で1月23日号のCell Reportsに掲載された。タイトルは「Glutamatergic tuning of hyperactive striatal projection neurons controls the motor response to dopamine replacement in Parkinsonian primate(パーキンソン病のサルでドーパミン保潤療法により誘導される運動反応を線条体への投射神経の過興奮のグルタミン酸刺激をチューニングすることで調節できる)」だ。

実験はサルで行う大変さはあるが、手法は単純で、MPTPという薬剤を全身投与して黒質細胞を変性させたアカゲザルの被蓋に電極と微量注射装置を挿入し、NMDA型グルタミン酸受容体(NMDAR)抑制剤を局所的に投与した時、線条体投射ニューロン(SPN)がどう反応するか調べている。

期待通り、阻害剤投与によりSPNの興奮は低下し、L-ドーパを投与した時も興奮は安定性を保つことから、ディスキネシアを抑えられることがわかる。同様の効果が、AMPA型グルタミン酸受容体の阻害剤でも見られる。

実際SPNの興奮抑制がディスキネシアを抑えるかを次に調べ、 NMDARやAMPARの阻害剤を局所に投与することで、パーキンソン症状に対するL-Dopaの作用を阻害することなく、ディスキネジアを抑えることができることを示すのに成功している。

最後に同じ阻害剤の全身投与を行い、局所投与と同じ効果が見られることを確認して実験を終えている。

これまでディスキネジアにはアマンタディンという薬剤が処方されているが、この薬剤は様々な受容体に対して効果があり、その中にはNMDARも含まれる。したがって、今回の実験でNMDAR,AMPARが特定されたことで、より特異的な阻害剤によりディスキネジアを抑える可能性が生まれた。しかし、両方の受容体とも、脳の機能に極めて重要で、全身投与を続けるのは問題があるだろう。とすると、先日紹介したような、より局所的な持続投与の技術の開発が待たれる。他にも、SPN内でのAMPAR/NMDARにたいする様々な修飾を標的とする治療法開発も可能かもしれない。臨床までにはまだまだ時間がかかるとは思うが、一歩前進したいい研究だと思う。
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