今日紹介するロックフェラー大学からの論文は、免疫担当細胞上の機能分子が相互作用をすると、このイベントを一定期間、細胞上に記録して残しておく方法の開発研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Monitoring T-cell-denderitic cell interactions in vivo by intercellular enzymatic labeling(生体内でのT細胞と樹状細胞の相互作用を細胞間の酵素による標識方でモニターする)」だ。
この研究では黄色ブドウ球菌が発現しているソルターゼAと言うペプチド転移酵素が、LPETGペプチドが存在するとこれをグリシンが5個並んだG5を持つ分子に共有結合させる活性を利用して、分子間の相互作用が起こったかをモニターする方法を開発している。
具体的にはCD40にG5、CD40Lにソルターゼが融合した遺伝子を作成、それぞれの細胞に発現させ、CD40とCD40Lの反応が細胞上で起こるときに、ビオチンなどで標識したLPETGを加えるとCD40側に標識されたペプチドが共有結合して、反応した細胞だけをビオチンを指標に検出する方法だ。
この研究はCD40とCD40Lの反応に焦点を絞って研究しているが、予備実験としてCD80/CD86、CD28/CTLA4,PD1/PD-L1など他の分子にも応用できることを示している。
さて、T細胞が樹状細胞上の抗原により刺激される時、樹状細胞のCD40とT細胞上のCD40Lが相互作用を起こす。この研究で最も重要なポイントは、新しく開発した方法が体内でのT細胞と樹状細胞の相互作用をモニターできるかになる。
CD40-G5を発現してソルテーズで標識できる樹状細胞に抗原をロードし、これを足蹠に注射し、18時間後CD40L-SorAを発現するT細胞を静脈注射する。さらに10時間後やはり足蹠にビオチンかLPETGを注射した後、免疫反応が起こる局所リンパ節にビオチンラベルされた樹状細胞が存在するか調べている。
結果は期待通りで、抗原特異的反応が起こるときのみ、樹状細胞がラベルされ、このラベルはCD40Lに対する抗体を用いるとブロックできる。
前もって樹状細胞に抗原をロードするのではなく、樹状細胞とT細胞を注射した後、抗原を別に注射して反応を起こす方法でも標識が可能で、抗原注射後24時間ぐらいからCD40が標識された樹状細胞が現れ、72時間にピークになることも示している。そしてこの実験系で、最初は抗原特異的にT細胞と樹状細胞が相互作用するときだけに標識できるのが、72時間になると抗原が存在しなくとも樹状細胞のCD40がT細胞のCD40Lと相互作用することも示している。この分野はフォローしていないので、これが新しいことか、既に知られていることかわからないが、分子と分子の相互作用を記録することで今まで気づかれなかった現象が見つかることを強調している。
話はここまでで、なかなか面白い方法だと思う。実際には、同じような試みは行われていたようだが、幾つかの改良を加えて信頼できる方法に仕上げたところがポイントのようだ。ただ、ソルテーズを融合させることで分子自体の機能が変化する心配があるし、標識した側の分子の寿命もこの方法の成否を左右するだろう。もし反応後すぐに細胞内に移行し処理されるような分子は使いにくい。
いずれにせよ、PD1などガンの局所での分子間相互作用に関わる細胞の特定、反応後の細胞の運命の追跡など応用範囲は広そうだ。わざわざ予備実験でCTLA4やPD−1にも使えることを示しており、次の論文はガン免疫現場での細胞記録になるような気がする。
カテゴリ:論文ウォッチ