アルツハイマー病(AD)の症状とリン酸化Tauの脳内での蓄積が強く相関することは広く認められるようになっている。さらに、重合したTau断片が神経から神経へと伝搬するというプリオン仮説についても、コンセンサスになってきたのではないかと思う。しかし、細胞膜で仕切られた細胞間を大きなタンパク質が伝搬するためには、細胞内へTauを取り込むメカニズが必要になる。これまでの研究で、細胞膜やマトリックスに存在するヘパラン硫酸プロテオグリカンやLDL受容体がTau取り込みに関わっている可能性を示唆する論文が発表されていた。
今日紹介するカリフォルニア大学サンタバーバラ校からの論文はLDL受容体の中のLRP1がTau取り込みの主役であることを示した研究で4月1日号のNatureオンライン版に発表された。タイトルは「LRP1 is a master regulator of tau uptake and spread(LRP1がTau取り込みと伝搬の主役分子)」だ。
この研究は最初からLDL受容体ファミリーのどれかがTau取り込みに関わると仮説を立てCRISPRテクノロジーを使ってグリオーマ細胞株H4から様々なLDL 受容体の発現を低下させTau取り込みが抑制されかスクリーニングを行い、LPR1の発現を抑制した時のみ沈殿型Tauの取り込みが低下することを発見する。また取り込まれる過程にはTauの微小管結合領域がLPR1と結合することが必要であることを明らかにする。
LRP1に結合することが知られている分子RAPとTauを競合させる実験を行い、RAPとTauがLRP1の同じ領域に結合し、互いに競合することを見出している。すなわち、このサイトを抑制することでTauの取り込みを抑制できることになる。
ここまでわかるとLRP1が実際の神経でも同じように働いているか、またモデル動物でLRP1を標的にしてTauの取り込みを抑えられるかが次の問題になる。まずヒトiPS由来の神経細胞を用いて、Tauの取り込みと、LPR1発現の抑制、あるいは、RAP添加による競合実験を行い、人間の正常神経細胞でも重合型Tauは取り込まれ、その時LRP1を介していることを明らかにした。
最後にマウスの脳にウイルスベクターで重合型Tauを自然生成できる遺伝子を注射する実験系で、離れた脳領域にTauが伝搬すること、またこの伝搬をLRP1発現を抑制するshRNAで抑えられることを明らかにしている。
結果は以上で、LRP1がAD治療の新しい標的になる可能性が生まれた。もちろん先は長い。しかしこの結果が再現できれば、様々なADモデルでLRP1抑制実験を行うことで、ADとTauプリオン仮説の検証が可能になる。もしうまくいけば、その先にADの新しい治療開発も視野に入ってくるように思う。