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新型コロナウイルス感染と高血圧に対するレニン・アンジオテンシンシステム阻害薬(The New England Journal, JAMA, BMJに相次いで掲載されたコメントの紹介)

2020年4月5日
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新型コロナウイルスに関する論文の数をPubMedで調べると、今日の時点で2000を越しており、このウイルスに対する情報が急速に蓄積されていることがわかる。ただ、このような混乱期の論文は、厳しい審査で選択するより、一定の基準があればともかく掲載して、情報を伝えたいというのが多くの雑誌のポリシーだろう。したがって、査読雑誌に掲載されたからといって、内容については鵜呑みにすることは危険を伴う。幸い、重大な指摘はすぐに反論や修正を求める論文や意見が寄せられるため、評価が定まるのにそう時間はかからない。

そんな一つがレニン・アンジオテンシン系の阻害剤を用いて高血圧治療を行なっている人は、新型コロナウイルスが重症化するリスクがあるのではという,ルイジアナ州立大学の研究者がJ.Travel Medicineに発表した指摘だろう。

この論文では、アンジオテンシンやその受容体の阻害剤の静脈注射を受けた動物の心臓や肺で、新型コロナウイルスの受容体であるACE2発現が上昇することを指摘し、この上昇がウイルスの細胞内への侵入を助け、感染の重症化につながるのではと懸念を表明した。

新型コロナウイルス感染の重症者の3割近くが高血圧ということが報告されていたため、多くの患者さんが服用する高血圧に対する薬剤により重症化が起こるのではと、この分野に衝撃が走った。

ところが中国の英文誌Science China3月号では、新型コロナウイルス感染患者さんの解析に基づき、ACE2機能がウイルスで抑制されるるため、アンジオテンシン2の濃度が上昇し肺血管の収縮で症状が重くなる可能性を指摘、アンジオテンシン受容体抑制剤を新型コロナウイルス治療に使えるという研究が発表された。またこの仮説に基づき実際治験が行われていることがわかった。

このように、レニンアンジオテンシン系高血圧治療について、相反する可能性が示唆されたわけで、実際患者さんに処方している医師達の混乱を招くことになった。

この混乱を鎮めるべく、臨床研究の雑誌をリードする3雑誌がこの問題についての見解相次いで発表した。

他にもHypertensionなども同じ趣旨の論文が発表されている。

詳しくは紹介しないが、いずれの雑誌も基本的には同じ意見で、

  • ACE2はレニンアンギオテンシン系の抑制システムで、新型コロナウイルスの細胞接着を媒介する。
  • 動物実験でレニンアンジオテンシン系阻害は、確かにACE2の発現を上昇させ、重症化の原因になる懸念は存在する。
  • しかし、人間については、動物実験結果がそのまま当てはまるか証拠は乏しい。
  • しかも、レニンアンギオテンシン系阻害剤を用いる新型コロナの治療治験も走っている。
  • このような状況で、高血圧のレニンアンジオテンシン系阻害薬を急に中止する方がはるかに危険性は高い。
  • 従って、これらの薬剤で血圧や心臓機能が安定に保たれている患者さんは、新しいデータが出るまで服用を続けて問題はない。

と結論している。

ただ、それでも心配な場合として、The BMJでは

  • 現在重度の血圧や心臓病をレニンアンジオテンシン系阻害剤でなんとかコントロールしている場合は新型コロナに感染してもそのまま続ける。
  • 軽度の高血圧でレニンアンジオテンシン系阻害剤を服用している場合、コロナ感染がはっきりした時点で服用を中止。
  • 同じく軽度の患者さんで、コロナ感染の可能性が高いばあい(家族、医療スタッフなど)は、感染前に中止を考える。

という3種類のガイドラインを出している。患者さんに聞かれた時の参考にしてほしいとまとめてみた。

今後も進展があれば論文紹介する。

4月5日 新しい現実的な膵臓ガン治療のプロトコル(4月16日 Cell 掲載論文)

2020年4月5日
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現在我が国ですい臓ガンに対して行われている化学療法はジェムシタビンが中心だが、DNA修復が低下しているガンに対してはプラチナ製剤も使用されていると思う。また、施設によってはEGFR阻害剤を組み合わせることも行われているのではないだろうか。

このような抗ガン剤の組み合わせを計画するときに重要なのは、細胞に対する異なる効果を合わせることで、一番わかりやすいのがガンの増殖を抑えた上で、免疫をチェックポイント療法で高めるといった組み合わせだろう。しかし、抗ガン剤自体もその効果を把握すると、さらに論理的な抗ガン治療が可能になる。

今日紹介するスローンケッタリング癌センターからの論文は、最近注目のガンに対する老化誘導がモデルマウスのすい臓ガン治療に高い効果を示すことを示した研究で4月16日号のCellに掲載された。タイトルは「Senescence-Induced Vascular Remodeling Creates Therapeutic Vulnerabilities in Pancreas Cancer (老化によって誘導される血管のリモデリングによってすい臓ガンの治療感受性を高められる)」だ。

研究は単純で、これまで著者らが提案していたCDK4/6阻害剤(パルボシリブ)とMEK阻害剤(トラメチニブ)を組み合わせてRB依存性の細胞老化を誘導して、すい臓ガン治療を改善できないか確かめることが目的だ。

遺伝子導入によるマウスすい臓ガンモデルに両方の薬剤(T/P)を投与すると、増殖を止めて老化が誘導されたことを示すマーカーが検出できるが、個体の生存曲線としてはほとんど変化ない。すなわち、ガンの方はこの治療を乗り越えられる。

つぎに同じ治療でガンの細胞老化が誘導されることで、周りの組織が変化するか調べ、ガン局所に血管が誘導され、しかも血管はしっかり開いて循環を維持していることを発見する。また、様々な分子マーカーを使った組織の検討から、ガンの老化により血管のリモデリング誘導されたことになる。

次にリモデリングされた血管の機能を調べる目的で、腫瘍への抗ガン剤ジェムシタビンの浸透を調べると、T/P治療を行わなかった群と比べ、アイソトープ標識されたジェムシタビンが腫瘍内に浸透し、その結果ジェムシタビンの効果を大きく高まる。すなわちT/Pとジェムシタビンを組み合わせた化学療法は、ジェムシタビン単独と比べて2倍の効果がある。

さらに、血管が腫瘍に浸透することで腫瘍周辺に多くのCD8T細胞も浸潤していることがわかる。しかし、この細胞はPD1を強く発現し、また腫瘍のPD-l1発現もT/P治療で上昇するので、結局CD8T細胞の活性はすぐに抑えられ、あまりガン抑制に役に立っていない。

そこで、抗PD1抗体を投与すると、T細胞の活性が復活し、ガンの抑制が可能になる。すなわち、T/P治療とPD1抗体を組み合わせることで、生存を2倍に伸ばすことができる。

以上が結果で、論文としてはよくCellに受理されたなと印象があるほど単純な話だ。しかし、全ての薬剤は今使われていることから、明日から臨床治験が可能になることは明らかで、このインパクトでCellは掲載したのだと思う。

現在ニューヨークはコロナで大変な状況だと思う。おそらくスローンケッタリングでは治験が進んでいると思うが、この状況に打ち勝って是非早期に朗報がもたらせるのを期待している。

カテゴリ:論文ウォッチ
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