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4月19日 慢性閉塞性肺疾患は幹細胞病?(5月14日出版予定 Cell 掲載論文)

2020年4月19日
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一昨日慢性炎症の一つの典型とも言える変形性関節症の軟骨がメチル化DNAをハイドロオキシ化するTet1の発現上昇による、軟骨の一種のリプログラム病である可能性を示した論文を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/12821)。このように、慢性炎症は感染や慢性刺激などが誘因になってはいても、最終的にはリプログラムされた細胞が発生してそれが炎症組織を置き換えていくという可能性が示唆されてきた。

今日紹介するテキサス・ヒューストン大学からの論文はもう一つの典型的慢性炎症である慢性閉塞性肺疾患(COPD)の肺に存在する幹細胞の多くがリプログラムされており、それが繰り返す炎症の原因になることを示した研究で5月14日号の Cell に掲載された。タイトルは「Regenerative Metaplastic Clones in COPD Lung Drive Inflammation and Fibrosis (COPDでメタプラジア組織を再生するクローンが炎症や繊維化を誘導する)」だ。

この研究ではCOPDの患者さんの切除肺組織の細胞を培養、クローン性増殖を起こす細胞の遺伝子発現プロフィルから4種類のクラスターに別れることをまず示している。すなわち、肺の再生に関わる増殖能力の高い細胞が4種類存在していることを意味している。もちろん、同じような4種類の細胞は正常組織にも存在しているが、遺伝子発現を比べると、COPD患者さん由来のそれぞれの細胞は、明らかに正常のグループとは異なり、メタプラジア(組織のアイデンティティーが崩れている)に関わる遺伝子の発現が高まっていることがわかった。

それぞれのグループのクローン(患者さん由来)を免疫不全マウスに移植すると、正常のクローンを移植した時にはほとんど見られないメタプラジアが起こり、この性質は細胞を継代しても維持される。すなわち、増殖する幹細胞レベルでのリプログラミングが起こっていることがわかった。

またそれぞれのクローンについてsingle cell trascriptome解析を行い、メタプラジアに関わる特異的遺伝子も特定し、その中からFACSで利用できる表面分子マーカーも開発している。

4種類の増殖性の幹細胞のうち最も興味を引くのがクラスター4と名付けられた幹細胞で、COPD患者さん由来のクラスター4は、炎症を誘導するサイトカインやケモカインの発現が高い。そして、COPD由来のクラスター4細胞をマウスに移植すると、白血球の浸潤を含む強い炎症が起こる。

一方、ホストの線維化を誘導するサイトカインの分泌はクラスター3(扁平上皮へ分化)とクラスター4で強く、それぞれ移植したマウスでは繊維化が誘導されることを示している。

詳細をかなり省いて紹介したが結果は以上だ。要するに、肺の細胞の新陳代謝を担っている幹細胞がタバコの刺激など慢性の刺激によりリプログラムされ、異常組織の再生産を維持しているという話で、前回紹介した変形性関節炎とともに慢性疾患で、細胞がエピジェネティックにリプログラムされていることを示唆している。

とすると、肺の幹細胞を対象に、エピジェネティックな変化を元に戻せないか、変形性関節炎と同じような治療法開発も可能だと思うし、何よりも正常の幹細胞で置き換えられないか、これまでとは全く異なる方向での治療法が可能になるかもしれない。慢性炎症は本当に奥が深い。

カテゴリ:論文ウォッチ
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