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Abiogenesis研究の解説

2020年4月30日
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大阪大学:現代ゲノム講義が中止になったので、学生の方々には資料(https://aasj.jp/news/lifescience-current/10778)を読んでいただくことになりました。ただ、分かりにくい点も多いと思うので、Youtubeで解説することにしました。この講義自体はOpenですので、興味のある方はお聞きください。

明日午後2時から第一回をスタートします。(https://www.youtube.com/watch?v=fN9PZtj_UGk

カテゴリ:ワークショップ

医療現場の窮状がわかる悲しい2論文

2020年4月30日
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どこの国でも、一つの病気で1ヶ月に1万人近い死者がでれば、医療現場は対応しきれない。それでも救える命なら一人でも救おうと世界中で医療従事者たちは奮闘している。この様子は多くのメディアにより報道されているが、この窮状は専門の医学誌に投稿された論文からも伺える。

今日紹介する2報の論文は、胸が詰まるほど悲しい論文で、covid-19感染大爆発が起こったイタリアと米国からの論文だ。いずれもOpen Accessで多くの医師と情報を共有するために書かれた論文だ。

最初はボローニャの大学病院から胸部疾患の専門誌Thoraxに発表された論文で、一台の人工呼吸器を二人の患者さんに同時に使うための方法を説明している。

よく読んでみると、このアイデアはSARS流行時に提案され、動物実験で可能であることも確かめられている。また、イタリアだけでなく、米国の病院でもすでに実施されており、マニュアルについてはウェッブでも公開されている。ただ、Thoraxのような専門誌に正式に発表されたのはこれが初めてだろう。

実際には二人の患者さんを1台のベンチレーターにつなぎ、様々な条件を調べて、同じ体格など対象を選べば、十分可能な方法であることを示している。とはいえ、医学的にはこれは決して標準ではなく、一種の苦渋の選択であることも強調しており、辛い選択は続いているのだろう。何れにせよ、イタリアだけでなく多くの病院で同じ治療が行われており、今後結果が集められ報告されるように思う。

個人的印象だが、このようなデータを集めて、例えば4人の患者さんに同時に使えるベンチレーターは現代の技術で開発できる気がする。

もう一報も資材不足に医療現場がどう対応すればいいのかについての論文で、アメリカ外科学会の雑誌にワシントン大学から報告された。

内容だが、高性能医療用N95マスクを病院全体で回収し、過酸化水素蒸気でウイルスを除去する再生サイクルをどう設計すればいいのかについて詳しく述べており、情報共有として論文発表をしている。

いずれの論文も、先進国の医療体制の脆弱性を物語る悲しい論文だが、この状況を自ら改善しようと医師たちが不断に努力していることもよく分かる、励まされる論文でもあった。

4月30日 間質組織での炎症の伝搬(4月22日号 Nature 掲載論文)

2020年4月30日
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間質細胞などと書くと、なにか構造的に裏打ちしているだけに思えるが、実際には組織学的に同じ形態はしていても多様な細胞から構成されており、この多様性に支えられて組織形成や、炎症が起こる。例えば京大時代に研究していたリンパ組織の形成も、組織形成の場所に周りとは異なる線維芽細胞が生まれて初めて可能になる。組織形成だけでなく、炎症もそうで、炎症の場の広がりは、浸潤する血液細胞だけで決まるわけではなく、炎症を支える形に転換した線維芽細胞の出現が必要になる。

今日紹介するハーバード大学からの論文は関節腔を形成する滑膜組織というほとんど間質からできた比較的単純な組織の特徴を利用して炎症巣が広がる過程を解析した研究で4月22日号のNature にオンライン掲載された。タイトルは「Notch signaling drives synovial fibroblast identity and arthritis pathology (Notchシグナルは滑膜の線維芽細胞の個性を決め関節炎の病理変化を制御する)」だ。

いま人間の各組織のすべての細胞のsingle cell trascriptome 解析を行い体全体の細胞アトラスを完成させる計画が進んでいるが、おかげで線維芽細胞の多様性が続々明らかになっている。この研究でも、まずヒト滑膜組織から細胞を採取しsingle cell transcriptome 解析を行っている。

この解析を行うと通常多数の細胞集団が特定されるのだが、さすがに滑膜組織で、細胞の種類は少ない。しかし間質細胞は連続はしているが遺伝子発現で区別できる2種類と血管周囲の壁細胞に分類される。

この研究の重要性は、単純に3種類の線維芽細胞が存在するのではなく、壁細胞、滑膜下部組織、滑膜表面へと少しづつ異なる細胞が傾斜的に分布していることを示した点で、結局多様性も様々なシグナル依存的に形成されていることを示した点だろう。また、滑膜に関する限り血管周囲の壁細胞も同じ細胞系列といえるようだ。その上で、この通常のバランスが、リュウマチの滑膜では、滑膜下線維芽細胞が肥厚してくることを示している。

次にこの多様性を生むシグナルを探索し、Notch3とJag1がシグナルの中核を形成していること、さらに血管が発現するJag1やDLL4が線維芽細胞のNotch3を刺激すると、その線維芽細胞でもNotch3とJag1が誘導され、このJag1が隣のNotch3を活性化して、順々にシグナルがリレーされることを明らかにしている。普通Notchとそのリガンドは異なる細胞で発現して刺激して、それぞれの細胞の個性を確立するのに使われるので、このように細胞の個性を順番に変えるのに使われているのも面白い。

そして最後に、リュウマチ滑膜ではNotch3陽性線維芽細胞の割合が上昇していることから、リュウマチではこのシグナルが高まっていると考え、Notch3シグナルをノックアウトすることでリュウマチの症状が抑えられるか調べている。

結果は予想通りでどのように刺激が始まるかについては不明だが、ノックアウトや抗体によるNotch3 シグナル阻害で、マウスリュウマチモデルの関節症状が抑えられることを示している。

結果は以上で、血液系の細胞だけでなく、間質系の細胞もリュウマチ治療の標的になることを示した研究で、サイトカイン抑制と組み合わすと相加的以上の効果が期待できるかもしれない。

カテゴリ:論文ウォッチ
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