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物心つく前の乳幼児がテレビを見る行動から何がわかるか(自閉症の科学 第43回)

2020年4月25日
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私たちの子供の頃と違って、ほとんどの家庭にテレビやビデオがあり、乳児がいても、かなりの時間試聴されていると思う。とすると、私たちの世代と、テレビ以降の世代で、物心つく前の乳児期の経験はかなり違っている様に思える。

もしテレビがただの風景と同じなら、何の差も生まれないが、テレビやビデオ画面上での映像が物心つかない乳児にとって、風景とは全く違う内容を持つとすれば、その影響を知りたいと思う。

今日紹介するフィラデルフィアにあるDrexel大学からの論文は、米国で生活環境の幼児の発達への影響を調べる目的で追跡されている子供たちの中から2152人を選んで、乳児期にテレビやビデオ画面に興味を持つことが、性格にどのような影響を持つかを調べた研究で、4月20日JAMA Pediatricsオンライン版に掲載された。

研究は極めて単純で、12ヶ月時点で、保護者(92%は実の親で、他祖父母など)に、「お子さんはテレビを見ますか?」「お子さんと一緒に絵本を見ますか?」と聞いた後、18ヶ月時点でもう一度「この1ヶ月を振り返って、1日何時間ぐらいテレビをみていますか?」と聞く。

そして2歳児になった時、M-CHAT(日本語版:https://www.ncnp.go.jp/nimh/jidou/aboutus/mchat-j.pdf)で自閉症スペクトラム(ASD)様症状を示すか、あるいは将来のASDリスクを調べ、乳児期でのテレビの試聴や、保護者との遊びの時間と、M-CHATによる性格診断との相関を見ている。

結果は明瞭で、12ヶ月時点で、保護者がテレビやビデオを見ていると答えた子供は、より多くのASD様症状を示すが、ASDになるリスクスコアは変わらない。しかし、18ヶ月時でテレビを見ている時間とASD症状やリスクはほとんど相関がなかった。これに対し、12ヶ月時点で保護者と一緒に絵本を見たりする時間が長いと、ASD様症状は低下することもわかった。

以上をまとめると、

  • 物心つく前にテレビを見る様になる子供は、ASDリスクが高まるわけではないが、ASD様の症状が現れる、すなわASD様の性格が現れる。
  • 一方、保護者と一緒に遊ぶ時間が長いほど、この様な症状の出現を防ぐことができる。
  • 18ヶ月を越すと、テレビを見ることとASD症状とは関係がなくなる。

くれぐれも間違わないでほしいが、1歳までにテレビを見る子供は、ASDのリスクがあるという話ではない。今の所言えるのは、私たち世代の経験したことのない乳児期のテレビという風景が、ASD様症状の出現と何らかの関係ありそうだという観察結果だけだ。もちろん、テレビが原因でASD様症状が出るとも、ASD様傾向を持つのでテレビに興味を示すとも結論できない。しかし、できる限りテレビという人工的風景を避け、子供との時間を持つことはASD症状の出現を防げる可能性を示していると思う。簡単な観察研究だが、典型児、ASD児を問わず、乳児期のあり方の一つのヒントを示している様に感じたので、自閉症の科学として紹介することにした。

4月25日 すい臓ガンとオートファジー(4月22日 Nature オンライン掲載論文)

2020年4月25日
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オートファジーは様々なガンで自分を守るために活性が高まっていることが知られており(https://aasj.jp/news/watch/1218)、今話題のハイドロオキシクロロキンをガン治療と組み合わせる治験が進んでいる。たとえば米国の治験登録サイトをcancerとhydroxychroloquineで検索すると、75の治験が上がってくるが、最初のページの10治験では、すい臓ガンが2件、前立腺ガンが5件、乳ガンが2件、肝臓ガンが1件で、確かに多くのガンが対象になっていることがわかる。

今日紹介するニューヨーク大学からの論文はオートファジーがガンが免疫システムから逃れる機構として使っていることを示した論文で4月22日号のNatureに掲載された。タイトルは「Autophagy promotes immune evasion of pancreatic cancer by degrading MHC-I(オートファジーはMHC-Iを分解してすい臓ガンの免疫回避を促進する)」だ。筆頭著者はYamamotoなので日本からの留学生かもしれないが、今のニューヨークだと生活は大変なのではと心配する。

この研究は、すい臓ガン細胞を観察するとキラー免疫の抗原を提示するMHC-Iが表面から消失して、リソゾームに蓄積、分解されている像が見られるという気づきを発端としている。これまで多くの人が観察してきたはずだが、この注意深さがこの研究のすべてのように思える。

あとは、リソゾームに移行して分解されるいくつかのメカニズムの可能性を検討し、最終的にオートファジーを抑制すると、リソゾームへの移行がなくなり、細胞表面での発現が維持されることを示している。また、MHC-Iはオートファジーのカーゴ受容体の一つNBR1と直接結合することを明らかにしている。

以上がMHC-Iを処理するオートファジーメカニズムについての研究で、あとはMHC-Iが表面から消えることで予想される免疫回避を、オートファジー抑制で抑えることができるのか、試験管内やガン移植モデルで調べている。詳細は省くが、キラーT細胞への感受性はオートファジーを阻害することで高まり、移植ガンの実験系で、クロロキンとチェックポイント治療を組み合わせると、ガンへのCD8細胞の浸潤が高まり、その結果ガンの増殖を抑制できることを示している。

以上が結果で、古典的手法を用いた堅実な研究という印象だが、臨床への道は近いと思う。事実、先の治験サイトの検索にチェックポイント治療を加えると、これからリクルートする2種類の治験と現在リクルート中の1治験が上がっており、今後すい臓ガンでも治験が進むのではと期待する。

カテゴリ:論文ウォッチ
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