胎児期は原則として無菌環境にあるが、生まれる時産道で最初の細菌やウイルスに出会う。この出会いをはじめに、その後急速に様々な外来因子と出会い、しかも皮膚から腸まで、外界と直接繋がっている部分では、これらの因子との共存が行われ、多くの細菌は私たちの健康になくてはならない役割を果たしてくれている。この、外来因子と私たちの身体との関係については、細菌叢研究として21世紀急速に進んでおり、このブログでも多くの論文を紹介してきた。しかし、これらの研究は細菌が中心で、今私たちを苦しめているウイルスと私たちの最初の出会いの過程については論文を見かけたことはほとんどなかった。
今日紹介するペンシルバニア大学からの論文は胎児期に飲み込んだ最初の胎便から4ヶ月齢まで、胎児大便中にあるウイルスの種類と量を調べたもので、4月22日号 Nature に掲載された。タイトルは「The stepwise assembly of the neonatal virome is modulated by breastfeeding (新生児のウイルス集団の形成は母乳により変化する)」だ。
研究は単純で、胎便、1ヶ月、4ヶ月の便中のウイルスの種類と量を、物理的な方法でウイルス粒子を分離した後、サンプリングした全DNA、RNA配列を決定して調べているだけだ。そして同じ解析を、米国の黒人と、アフリカ・ボツワナの黒人で行い、比べている。
ウイルス粒子をザクッとカウントして、ほとんどの胎便にはウイルス粒子が存在しないが、1ヶ月、4ヶ月と存在するウイルスの種類と数は高まることをまず確認している。
これら粒子のDNA,RNA配列解析を行うと、
- 大便中のウイルスの多くは、細菌に感染しているファージウイルスが占める。
- ファージウイルスのほとんどは、バクテリアゲノムにプロファージとして組み込まれていたものが、何らかの刺激による誘導で細菌外へ分泌されたもの。後期には、外界から腸内細菌に感染したファージも見つかる。
- プロファージの種類は、形成された細菌叢の種類と比例する。
- 人の細胞に感染するウイルスは胎便にはほとんど存在しないが、1ヶ月、4ヶ月と数と種類が増える。
- アフリカの子供の方が人の細胞に感染できるウイルスの種類や量が多い。
- 人工栄養の子供と母乳で育てた子供を比較すると、母乳により、ヒトに感染するウイルスの上昇は強く抑制されている。
以上が結果で、論文ではウイルスが存在することを強調して書いているが、個人的には1gの鞭虫に10億個レベルの粒子しかないということで、腸内はウイルスが多い場所とは言えないなという印象を持った。
論文としては珍しい研究である以上には評価しにくいが、一番重要だと思ったのはやはり母乳の力で、抗体を始め、オリゴ糖、ラクトフェリン、抗ウイルスタンパク質などが存在する。もし母乳の力をコロナ予防にも生かすことも考えられるかもしれない。