喘息は抗原により誘導されるアレルギー反応だが、病理的には極めて複雑な炎症反応で、蕁麻疹のような単純なものではない。この複雑化に関わるのが抗原反応性はない自然免疫に関わるinnate lymphoid cells(ILC)で、特に喘息の場合ILC2が慢性的に活性化されることが様々な病理反応の背景にあると考えられている。
今日紹介するドイツ・ボン大学からの論文は喘息モデルマウスでこのILC2細胞を増殖させる条件を探る中で、代謝を通してこの細胞を調節し喘息を治療する可能性を示した研究で4月14日号のImmunityに掲載された。タイトルは「Lipid-Droplet Formation Drives Pathogenic Group 2 Innate Lymphoid Cells in Airway Inflammation (気管の炎症時のLC2細胞の脂肪滴形成が病気を促進する)」だ。
この研究では、喘息の炎症が慢性化するプロセスを探るため、パパインを抗原にした喘息モデルで、抗原に暴露した後増殖して炎症を慢性化させるILC2を追跡し、ILC2が慢性的に刺激されると細胞内に脂肪滴が形成されることに気がつき、この脂肪代謝の変化とILC2の活性化との関係を調べ始め、ILC2の脂肪代謝について以下の結果を得ている。
- 試験管内に取り出したILC2の増殖はIL7とIL33の組み合わせで最も強く、この時ILC2細胞内での脂肪滴形成がIL33により誘導される。
- この脂肪滴形成は、細胞外から遊離脂肪酸を急速に取り込み利用する過程で、細胞内に溜まった遊離脂肪酸の毒性を抑えて脂肪代謝を高める役割がある。
- 脂肪滴形成はDgat1分子より調節されており、この分子を欠損させる、あるいは阻害剤で脂肪滴形成は抑えられるが、それと同時に脂肪毒性により細胞の活性が低下する。
- ILC2の脂肪滴形成は、脂肪細胞と同じでPPAR γ分子により調節されており、この分子の阻害剤で脂肪滴形成を抑え、ILC2の増殖やサイトカイン形成を抑えることができる。
- 細胞外の遊離脂肪酸はILC2の増殖や活性を高めるために必須だが、この時グルコースが同時に存在しないと脂肪代謝サイクルがうまく回らない。
- グルコースはmTor経路を介してPPARγやDgat1脂肪代謝システムを誘導する。
以上のことから、ILC2がIL7+IL33刺激で活性化される時、エネルギー供給ソースとしてブドウ糖を必要とするが、この経路の促進により代謝のプログラムの変化がおこり、mTor経路を介して、PPARγやDgat1などの脂肪代謝経路が活性化し、外部から活発に遊離脂肪酸を取り込むことで増殖する、と結論している。
この結果から、様々な阻害剤が喘息にも効くなと私のような凡人は考えてしまうのだが、このグループはILC2がサイトカインで活性化された後の代謝経路を変える最初のトリガーになるブドウ糖を摂取を、ケトンダイエットで減らすことでILC2の増殖を抑えられないかと着想し、見事に脂肪滴形成を含むILC2の機能を抑えて、炎症を鎮められることを示している。
喘息にケトンダイエットが行われているのがよくわからないが、慢性化を防ぐ一つの方法と考える価値はあるなと感じた。