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3月1日 肉食恐竜のボディーサイズが2分している謎を探る(2月26日号 Science 掲載論文)

2021年3月1日
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この年まで、恐竜に興味を持ったことはほとんどない。実際恐竜の名前となるとTrex以外ほとんど出てこないし、自然史博物館に行っても、「ほー」と眺めながら素通りになる。しかし、今日紹介するニューメキシコ大学からの論文を読んで、化石しか手がかりがなくても、生態学といっていいレベルのデータ蓄積が進んでいることを知って感心した。タイトルは「The influence of juvenile dinosaurs on community structure and diversity(幼若期の恐竜が恐竜社会の構造と多様性に影響を及ぼす)」で、2月26日号のScienceに掲載された。

ここからはど素人の立場で解説してみよう。

なんと世界には4040万以上の分類群のデータが集まる古生物データベースがある。これを活用すれば、恐竜の謎についても科学的解析が可能だ。子供に人気の恐竜にはいくつかの謎がある。例えば、草食恐竜に比べると、肉食恐竜はなぜ種が多様なのかは有名な謎だが、もう一つ研究者が議論してきた謎の一つが、恐竜のサイズが小さい恐竜と大きな恐竜に2分して、中間がいないという謎だ。

これにチャレンジしたのがアリゾナ大学のグループで、同じ時代に存在した恐竜のサイズの全世界レベルの分布と、生態調査が進む各地域での分布を比べてみた。すると、草食恐竜では世界的分布と地域の分布でそれほど差はなかったのに、肉食恐竜になると、限られた地域で見ると、世界的傾向を遥かに超える大きい恐竜、小さい恐竜の2極化がはっきりとして、100kgから1000kgの大きさの恐竜がほとんど存在しない。

この傾向は、ジュラ紀から白亜紀に進むとますますはっきりしてくる。この原因の一つは当然餌としての草食恐竜の生態にあるが、おそらく草食恐竜が子供も交えた集団で移住する習性は中型恐竜のプレッシャーになった可能性は大きい。その結果、ジュラ紀には雑食恐竜や、魚を食べる恐竜が進化している。

これに加えて、アリゾナ大学のグループが提案したのが、白亜紀に入ってTrex型の大型恐竜が栄え始めると、大型恐竜の子供が、中型恐竜の餌を奪ったため、それぞれの地域から中型恐竜が駆逐されたのではないかという仮説だ。もう少し説明すると、Trexは卵から孵化した直後は極めて小さいサイズで、そこから16ー19年で巨大恐竜へと成長するため、徐々に淘汰されるとはいえ、幼若期の恐竜自体が、中型恐竜として成体とは異なる餌を捕食することで、中型恐竜を駆逐したと言う話だ。

この可能性を示すため、やはりデータベースで白亜紀の肉食恐竜の成熟前のボディーマスを計算し、白亜紀肉食恐竜では生体に対して、ほとんど60%以上のボディーマスを占めることを示している。

ともすると古生物学では、成体を基盤に生態系を考えてしまうが、実際には子供も含めて生態系を考えることが重要であることを教えてくれた。全く恐竜ど素人にも面白い論文で、恐竜ファンの子供には是非伝えたい。

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