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3月31日 アルツハイマー病治療の新しい標的(3月17日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2021年3月31日
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ほとんどの会社が撤退する中で、アルツハイマー病(AD)がアミロイドβ(Aβ)の蓄積をトリガーとして進むとするAβセオリーに賭けたバイオジェントエーザイの抗体薬、アヂュカヌマブがようやく承認申請にこぎつけたようだが、早速今度はEli LillyからAβに対する抗体薬の有効性を示した論文がThe New England Journal of Medicine に発表された。

早速競争が激化しはじめたという印象があるが、Aβを減らすことの重要性はこれらの結果からよくわかる。もちろん、これを達成するためには、アミロイド前駆体タンパク質からAβを切り出すガンマセクレター ゼによるγ切断とBACEによるβ切断をブロックすれば良いのだが、こちらの開発は遅れているようだ。

今日紹介するジョンズホプキンス大学からの論文はAβが切り出される過程にもう一つの介入ポイントが存在しうることを示した研究で3月17日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「GDE2-RECK controls ADAM10 α-secretase–mediated cleavage of amyloid precursor protein(GED2-RECKはADAM10 αセクレターゼを介するアミロイド前駆体タンパク質の切断を調節している)」だ。

実はAβを切り出す可能性のサイトがアミロイド前駆体にはα切断サイトとして知られる切断箇所がもう一つ存在し、この切断に関わるのがADAM10であることが知られている。そして、α切断を受けたAβは凝集しにくいことも知られている。従って、ADAM10の脳内での活性を高めてやることでも、Aβの凝集を抑えることができる。

この研究では、ADAM10の活性を抑えるGPI結合膜タンパク質RECKと、RECKを膜から遊離させるGDE2がAD治療の標的にならないかを検討している。

ADAM10を抑制するRECKを膜から切り離すGDE2は、ADAM10の活性を上げる働きがあるはずだが、RECKもGDE2も発現レベルで見るとADでも一定している。そこで、GDE2の膜上への移行が阻害されているのではと着想して、GDEに対する抗体を作成AD患者の脳を調べると、予想通りAD患者さんの神経では細胞質内に蓄積して、膜上に移行できないこと、またその結果として、膜上のADAM10阻害分子RECKの発現が上昇していることを発見している。

ただ、人間での検討はここまでで、あとはGDE2遺伝子ノックアウトマウスを用い、このマウスでは脳内のAβが蓄積しやすくなっていること、その結果として脳神経のシナプス結合が低下することを示している。また、RECKを過剰発現させる実験も行い、GDE2ノックアウトと同じようにAβの蓄積が起こりやすいことを示している。

最後に、アミロイド前駆タンパク質、ADAM10、RECK、GDE2全ての遺伝子を導入したCos細胞で、ADAM,GDE2,RECKそれぞれをノックダウンしてAβの生成を調べ、最初に着想したADAM10経路の調節が、ADの標的になる可能性を示している。

以上が結果で、実際の介入手段は明確ではないが、一種搦手からADを責める方法としては、検討の価値があるように感じる。患者さんから見たら遅すぎるということになるとは思うが、少しづつではあっても治療法開発へ近づいていることは確かだ。

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