細菌が貪食により細胞内に取り込まれるだけでなく、それぞれ独自のメカニズムで細胞内に侵入し、場合によっては赤痢菌の様に細胞膜を超えて隣接した細胞へ移動できる細菌まで存在する。当然、細菌に触れる細胞や腫瘍に関して、細菌が侵入していないか興味がある。さらに、細菌によっては、細胞内に侵入することでガン転移を誘導することまで知られている。
今日紹介するイスラエル・ワイズマン研究所からの論文は、メラノーマにも細菌が侵入し、場合によってはガン特異的抗原として働く可能性を調べた研究で3月17日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Identification of bacteria-derived HLA-bound peptides in melanoma(メラノーマ内でバクテリア由来のHLA結合性ペプチドを特定する)」だ。
なぜこの様な研究を着想したのか気になるところだが、ガン細胞に細菌が侵入できるなら、細菌由来分子が一種のガン抗原としてホスト免疫の対象になってもいいのではないかと考え、9人の患者さんから17種類のメラノーマを分離、細胞を精製してその中に存在する16SリボゾームRNAから、細菌が存在しているかどうか確かめるところから始めている。
全体で40種類のバクテリアを検出しているが、そのうちいくつかは、同じ患者さんの原発、転移巣で共通に見られ、さらに患者さんを超えてメラノーマ共通に存在するバクテリアも発見されている。
次にこれらのバクテリアがガン細胞特異的抗原として働けるかどうか調べるため、バクテリアが合成するタンパク質由来ペプチドと、9人の患者さんに発現している組織適合抗原との結合性をコンピュータで計算している。結果、常在菌として知られるStreptococcus captis、 Staphylococcus aureus、 Fusobacterium nucleatamの3種のバクテリアが合成する多くの、特に疎水性の高いペプチドが、メラノーマによりて提示される抗原ペプチドとして機能できることを示している。
抗原として機能する可能性のあるペプチドが本当にガン抗原として作用するのかについては、2人の患者さんの患部からリンパ球を取り出し、ペプチドに対する反応をインターフェロンの分泌で調べ、確かにバクテリア由来の分子がガン抗原として振る舞えることを示しているが、そう強いデータではなく、今後の研究が必要だろう。
これら臨床的研究をバックアップするため、患者さんから分離したメラノーマ細胞株と、蛍光ラベルしたFusobacteriumを共培養して細胞内への侵入が確かに起こることを示し、さらに組織適合性抗原と結合しているペプチドを分離する方法で、バクテリア由来ペプチドが確かに細胞表面に提示できることまで示している。
以上の結果から、メラノーマでは常在菌が侵入している場合が多く、これがガン抗原として使えるかもしれないと結論している。確かに発想はユニークで、結果も矛盾しないが、しかし実際の臨床でこの様なペプチドを使うための明確なスキームがないと、論文のための論文で終わる様な気もする。