核内でのゲノム各領域の相互作用を調べるテクノロジー(Hi-Cなど)によりtopology associating domain (TAD)を定義できることを知ったときは新鮮な驚きを感じたし、さらにこの方法で定義されたTADの領域を理解することで、複雑な指の発生異常の一端を理解できることに大いに感動したドイツ・マックスプランク研究所の論文を、以前わざわざ自分の誕生日に、この欄で珍しく図入りで紹介した(https://aasj.jp/news/watch/3533)。
あれから6年近くが経過し、すでに当たり前の話なので、最近TADに関する論文を紹介する機会は減ったが、例えば抗体遺伝子の再構成など様々な研究に登場するようになってきている(https://aasj.jp/news/watch/4319)。
今日紹介するフランス・トゥールーズ大学からの論文は、DNA二重鎖がなんらかのきっかけで切断された時に誘導される修復現象が、TADとの関係で調べることで、より明快に理解できることを示した研究で2月25日号Natureに掲載された。タイトルは「Loop extrusion as a mechanism for formation of DNA damage repair foci(ループ形成はDNA修復点形成のメカニズム)」だ。
細胞をX線照射すると二重鎖が切断され、修復機構が誘導される。この修復が何カ所で起こっているのかを細胞学的にカウントすることができるが、これは修復点の前後のヒストン(H2A)がリン酸化されるため、これに対する抗体で細胞を染めると、リン酸化されたヒストンが正確に修復点を指し示すからだ。
この研究ではまず、このH2Aリン酸化や、他の修復に伴うヒストン修復の分布が、切断部位から次のTAD境界まで広がっていることを確認している。すなわち、修復プロセスはTAD境界の中で起こる。
この結果から、TAD形成の基本分子であるコヒーシンやTCFと二重鎖切断部位にリクルートされる修復複合体の関係をCHIP法やHi-Cなどで詳しく検討し、最終的に以下のモデルに到達する。
コヒーシンを起点にDNAはATP依存的にループを形成することが知られているが、DNAの切断が起こるとそこにリクルートされた修復複合体が、切断部位の両側にコヒーシンを集め結合することで、コヒーシンを切断部位に固定すると同時にリン酸化し、これをきっかけにしてDNAのループが次のTAD境界まで形成され、この過程でループのH2Aが修復複合体のATMによりリン酸化される。おそらく、リン酸化されたH2Aにより修復範囲がTADに限定されるとともに、領域内のDNAの相互作用が高まることで、結合する相手(end-joining, homologous joiningとも)を見つけ、迅速に修復が進む。
久しぶりにTADに取り組んだ論文を紹介したが、TADから見ることが今もいかに重要かがよくわかった。