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3月29日新型コロナウイルスの口内感染(3月25日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

2021年3月29日
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新型コロナウイルスが様々なエントリーサイトを用いて細胞内に感染することは何度も紹介してきた(https://aasj.jp/news/watch/15109 、https://aasj.jp/news/watch/13302 )。とはいえ、今もメインの侵入口はACE2と融合に必要なTMPRSSを揃って発現している細胞で、その代表が鼻粘膜細胞になる。ただ、鼻からウイルス検出できない時でも唾液にウイルスが存在する例も多く報告されているし、これほど飛沫が感染源として恐れられる以上、鼻粘膜だけでなく、口内、特に唾液線にもウイルスは感染できると考えてきたが、口内のどの細胞が実際に感染しているのかについては徹底的な調査が行われてこなかったようだ。

今日紹介する英国サンガー研究所や米国NIHを中心にした国際研究グループからの論文は、口内に存在する細胞の種類をsingle cell RNA seq解析を用いて特定した後、それぞれのACE2とTMPRSSの発現を調べて、感染可能性を調べるとともに、実際の患者さんのサンプルを用いて、ウイルスが感染しているか丹念に調べた研究で、3月25日 Nature Medicineにオンライン発表された。タイトルは「SARS-CoV-2 infection of the oral cavity and saliva(口内と唾液線でのSARS-CoV-2感染)」だ。

この研究では、これまで集めた口内と唾液腺の単一細胞RNA sequencing (scRNAseq)を解析し直し、唾液腺では22種類、口内では28種類の異なる細胞を特定するとともに、様々な免疫細胞も特定できることを示している。

これらを12種類の上皮、7種類の間質、そして15種類の免疫細胞に整理した上で、それぞれのACE2,TMPRSSの発現を調べ、またその結果を実際の組織でのin situ hybridizationと照らし合わせて、それぞれの細胞がウイルスに感染する可能性を検討している。基本的には、唾液線、歯肉、舌の全ての上皮細胞には、多い少ないはあるが、一定の割合で両方の分子が発現しており、感染できることを示している。

その上で、この結果を確かめるために、実際のcovid-19感染患者さんのバイオプシーや、解剖標本を用いて、in situ hybridizationや免疫組織学を用いてウイルス感染を確かめ、予想通りほとんどの上皮細胞と一部の免疫細胞で感染がみられることを確認している。

また、口内でも他の組織と同じように、免疫細胞の浸潤を伴う炎症が誘導されるし、抗体も唾液中に出てくる。面白いのは、口内感染の多い人は、味覚障害を訴える確率が高く、炎症が広がっていることを示している。また、ウイルス排出期間も長くなる。

以上、結局口内のほとんどの上皮で、一定の割合で初期感染が起こる可能性があり、鼻粘膜とともに、ウイルスの含まれる飛沫を生産し続けることが明らかになった。誰もが当たり前と考えていたことが、はっきりと示されたという結果で、無症状者でも長く(3ヶ月近く)口内でウイルスが作り続けられるケースがあることを示されると、厄介な感染症であることを改めて認識する。

カテゴリ:論文ウォッチ
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