赤ちゃんの泣き声は、母親とのコミュニケーション手段ということについては誰も異論がないが、コミュニケーションの内容については、泣き声の分析と、行動解析を相関させることが必要になる。実際、台湾では20万件の赤ちゃんの泣き声を集めて、その声の意味を推定するスマフォアプリが開発されており、生後すぐには正解率が高いが、徐々に泣き声が複雑になり理解が難しいことが示されている。
今日紹介するドイツヴュルツブルグ大学からの論文は、同じような赤ちゃんの泣き声の意味をさぐる試みだが、行動との相関は求めず、言語的要素がどのように発展するかに絞って調べた研究だ。タイトルは「Melody complexity of infants’ cry and non‑cry vocalisations increases across the first six months(幼児の泣き声とそれ以外の声のメロディーの複雑性は最初の6ヶ月で高まる)」だ。
このような研究は世界中で行われていると思うが、この研究では277人の子供を選んで、主に家庭で泣いている時と、楽しく遊んでいる時の声を6ヶ月までの様々な時期に録音、分析している。
分析はメロディーの複雑さのみに絞り、一回のフレーズでの、メロディーの上がり下がりの回数、半音階のの数などで計算し、自動で分析を行うアプリを開発している。おそらく開発されたアプリは、今後様々ところで使えると思う。
結果は、
- 泣き声のメロディー性は生後急速に複雑化し、2週間目にはすでに50%近くの泣き声が複雑なメロディーを持っている。この複雑性は年齢とともに徐々に増加する。
- 泣き声以外の声のメロディー性は、個人差が大きいものの、やはり急速に複雑化する。ただ、120目をピークに複雑化の程度は低下する。
の2つにまとめることができる。行動との相関がないので、その意味はわからないが、私たちが周りの音を聞き始めることにより、急速にコミュニケーション手段を複雑化させていることがよくわかる。一方、泣き声以外の声では、複雑化した後、それが低下するのは、メロディーだけでなく、子音と母音を組み合わせた複雑性が混じってくるからだろうと結論している。
以上が結果で、先の台湾のアプリで、相関率が生後すぐには9割を越すのに、徐々に正解率が低下するのは、このメロディーの複雑さを反映できないためではないかと想像できる(勝手に思っているだけ)。
いずれにせよ、統一したアプリを世界中で使って、泣き声から言語発達要素を拾うとき、メロディーというユニバーサルな指標に絞って調べ、国際比較をすることは言語発達を理解する大きな助けになると期待したい。