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3月19日 動脈硬化にも発ガンのメカニズムが関わる(3月17日号 Nature 掲載論文)

2021年3月19日
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学生の頃は、病気を代謝、炎症、変性、腫瘍と分けて考えていた。ただ、その後それぞれの過程の分子メカニズムが明らかにされるにつれ、境界はますます不明確になってきている。特に、ほとんどの細胞に炎症メカニズムが備わっているという認識が浸透した後は、炎症はほぼ全ての領域にかぶさってきている。

当然発ガンや進展、転移に炎症が深く関わることが明らかになっているが、発ガン機構が直接炎症に関わるという逆の話はあまり聞いたことがなかった。今日紹介するコロンビア大学からの論文は、血液細胞の遺伝子変異により増殖が高まることで動脈硬化リスクが上がるという面白い研究で3月17日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「The AIM2 inflammasome exacerbates atherosclerosis in clonal haematopoiesis(クローン性の造血による動脈硬化をAIM2インフラマゾームが増悪させる)」だ。

これまで見逃していたのだが、Tet2欠損により血液前駆細胞の増殖活性が上昇すると、それにつれて動脈硬化のリスクが高まることが知られていたようだ。このTet2欠損などによる血液細胞のクローン性の増殖は、老化の指標として現在最も注目されている分野で、当然高齢者で血液細胞のクローン性増殖が増えると、動脈硬化巣に増殖性の高いマクロファージがリクルートされ、動脈硬化を悪化させる可能性は十分納得できる。

この研究では、血液前駆細胞の体細胞突然変異により、マクロファージの増殖が亢進し、これが引き金となって動脈硬化が進む可能性を研究するモデルとして、血液細胞の増殖が高まるJak2遺伝子の617番目のアミノ酸がバリンからフェニルアラニンに変異したVF変異をマクロファージに導入し、このマウスの骨髄細胞を動脈硬化が起こりやすいLDL受容体欠損マウスに移入する実験系を用いている。VF変異は白血病の原因にはならないが、かなり高い頻度で一般の人で見られる変異なので、臨床的にも重要なモデルだと思う。

結果だが、Jak2-VF変異を持つマクロファージは、早い段階で動脈硬化を発症し、さらに大きなネクローシスを伴うプラークを形成することが明らかになった。一方、例えば好中球の増殖が同じVF変異で起こっても、動脈硬化に全く影響はない。

この発見がこの研究の最も重要なメッセージで、今後大きなネクローシスを伴う動脈硬化を見た場合、血液のクローン性増殖が背景にあるかどうかを頭に置いて患者さんを見る必要があることになる。

後は、VF変異で起こってくる硬化巣の特徴と、そのメカニズムについて、主にノックアウトマウスを組み合わせた遺伝学的アプローチを用いて、

  • Jak2-VF変異は動脈硬化巣でのマクロファージの増殖を高めるだけでなく、代謝が活性化され、活性酸素によるDNA損傷まで誘導することで、AIM2インフラマゾーム依存性の炎症を誘導し、その結果IL-1βの分泌と共に、マクロファージ自体はgasdermin活性化により細胞死に陥る。このため、VF変異が関わる動脈硬化巣は、大きなネクローシスを伴う。
  • このメカニズムに基づいて、様々な介入方法が考えられるが、VF変異の場合はマクロファージ増殖と活性化のサイクルを止めるIL1β阻害が一番有効で、細胞内のインフラマゾームだけを標的にしても、マクロファージの増殖が続くため、ネクローシスは抑えられても、動脈硬化は進む。
  • これまで、Tet2欠損によるクローン性増殖に伴う動脈硬化では、インフラマゾーム(NLRP3)阻害が効果を示すことが示されており、クローン性増殖による動脈硬化の場合、ガンと同じように、増殖のドライバーを確かめて治療する必要がある。

私にとっては思いもかけない話だったが、読んでみると納得でき、この分野の新しい展開になるような予感がする。

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