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3月22日 X染色体不活化の維持機構(4月1日号 Cell 掲載論文)

2021年3月22日
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男性と異なり、女性ではX染色体が2本存在するため、発生初期に片方の染色体全体のクロマチン構造をXistと呼ばれるノンコーディングRNAを用いてヘテロクロマチン状態に転換し不活化することで、遺伝子発現量を調整している。このエピジェネティックな染色体不活化は、主にDNAメチル化を介しているため、いったん成立するとXistなしに維持できると考えられてきたが、最近になりXistを生後にノックアウトする研究で、Xistを用いた不活化を維持する機構が必要であることが示された。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文はヒトB 細胞についてXist維持機構を解析し、また維持機構が破綻することで、自己免疫病が発生することを明らかにした研究で4月1日発行予定のCellに掲載された。タイトルは「B cell-specific XIST complex enforces X-inactivation and restrains atypical B cells(BXist複合体がX染色体不活化を維持し、異常なB細胞出現を抑える)だ。

まず、ヒトB細胞のXistを75%レベルまでノックダウンをおこない、発現が変化する遺伝子を調べる実験により、成熟後のB細胞では、Xistなしでも不活化が維持される遺伝子と、Xistが常に必要なXist 依存性遺伝子に別れること、特にB細胞機能に必要な遺伝子ほど、Xistへの依存性が高いこと、そして成熟B細胞でのXist 依存的遺伝子抑制はヒストンの脱メチル化を通して行われることを明らかにする。すなわち、細胞特異的な機能に必要な遺伝子、たとえばB細胞の場合、自然免疫に関わるTLR7などは、一旦成立したメチル化の程度が低下するため、これを維持するXist依存的なヒストン修飾機構が働いていることが示唆される。

この新しい機構を探るため、B 細胞でXistと結合するタンパク質についてクリスパーを用いたノックアウト実験を行い、ヒストン修飾を介するX染色体不活化の一般的維持機構に関わる分子以外に、B細胞特異的にTLR7を不活化するTRIM28を発見し、これがXistを核とする分子複合体と結合して、プロモーター上でRNAポリメラーゼの機能をストップさせることで、転写を抑制することを明らかにしている。

これらの結果は、X染色体不活化が、発生時に確立したメチル化の維持だけではなく、Xistをガイドとして用いる様々な遺伝子抑制機能を使って行われていることを示し、X染色体不活化=XistによるDNAメチル化という、私の単純な理解を改めさせてくれたが、この研究ではさらに、B細胞ではこの不活化維持機構の破綻が、自己免疫型の異形B細胞の分化を促し、女性のみでおこる自己免疫病の原因になることを示している。

簡単にまとめてしまったが、様々なテクノロジーを駆使して膨大なデータに裏付けられた力作で、勉強になった。

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