脳から血管だけを残して他の細胞を取り去った立体標本を見ると、その美しさに驚くが、各局所の実測となると、顕微鏡の観察範囲に限定されるため、毛細血管レベルの詳細に至るまで、立体血管標本を使って計測することは簡単ではない。しかし、機能的MRI では脳の神経活動を局所の血流上昇で測定しており、様々な計測が行える脳血管立体標本の必要性が高まっている。
今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文は、立体血管標本を2光子共焦点顕微鏡で観察して、それをコンピュータで再構成し、脳全体の血管の構築を毛細管レベルで調べた研究で、4月7日号のNeuronに掲載予定だ。タイトルは「Brain microvasculature has a common topology with local differences in geometry that match metabolic load(脳の微小血管は代謝の必要性にマッチした局所的幾何学的違いを備える共通の立体構造を持っている)」だ。
この研究では、まず脳血管を壊さないように蛍光タンパク質で還流した後固定、こうしてできた標本を240ミクロンの立方体に分解して、2光子共焦点顕微鏡で血管の立体構築を再構築し、脳全体(約50000個の立方体に当たる)を、コンピュータで完全に結合させて、1ミクロンの解像度で分析できる、しかも全体が犯されることなく再構成された立体標本を完成させている。すなわち、立体標本は、実際に作成し、それを計測可能な標本にするため、部分観察を統合して、コンピュータ上に移していると言える。
このおかげで、毛細血管の走行や密度が脳の各箇所でどう変化しているのかなど、動的ではないが正確な測定が可能になり、脳機能の構造的背景が明らかになった。私はこの分野は全く素人だが、やろうとしたことはわかる。そして、50000個もの部分ごとに血管の完全立体標本を画像化し、さらにそれを脳全体へ再構成することがどれほど大変な作業かがわかる。
その結果、
- ねじれが少なく、比較的ストレートに伸び、ループが小さいデザインで血管ができており、一部の毛細血管が機能しなくなっても、可塑性が維持できる。
- これまで想像されてきたように、神経の構築に合わせて血管の分布も構築されており、これが脳領域の血管構築の違いの小本になっている。
- 各領域で、血管の長さが調整され、実質への酸素などの供給が一定に維持できるようになっており、脳組織の酸素分圧は進化とともに低下している。
などが示されているが、実際には課題に合わせてこのデータを使うことで、脳血管の機能を深められる、発展的なプラットフォームが完成したと言えるだろう。
方法論については、ほとんど理解できていないとは思うが、全体を詳細にわたって観察し、測定したいという本当の解剖学がここにあると思う。