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3月2日 動脈硬化による造血促進(3月4日号 Cell 掲載論文)

2021年3月2日
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動脈硬化症を血管の炎症として捉えることを提唱したのはPeter Libbyだったと思うが、これがきっかけになって、糖尿病、肥満まから老化まで、炎症という枠組みで捉え直すことが進み、インフラマゾーム概念の確立の結果、最終的に細胞死と、IL1βなどのサイトカインの放出という炎症の仕組みは、血液以外の多くの組織細胞に広がることになった。

これが頭に入ってしまうと、何が起こっても炎症で説明できるようになった。高齢になると、血液だけでなく、様々な組織細胞で増殖性が少し高まったクローン増殖が見られることが知られているが、検出のしやすさから圧倒的に血液で研究が進み、クローン性造血(CH)がDNA メチル化やヒストン修飾因子の変異が高頻度で見られることも明らかになっている。

これまで、CHが動脈硬化の人でより高頻度に見られることが知られているが、これがCHによる血液側の炎症に起因するのか、逆に動脈硬化という炎症に起因してCHが起こるのかが議論されていた。

今日紹介するハーバード大学からの論文は動脈硬化という全身の炎症が造血自体を高めることでCHが起こることを理論と簡単な実験で示した研究で、正直よくCellに採択されたなという印象だが、炎症と造血という点では面白いので紹介することにした。タイトルは「Increased stem cell proliferation in atherosclerosis accelerates clonal hematopoiesis (動脈硬化による血液幹細胞の増殖上昇によりクローン化造血が促進される):だ。

動脈硬化により、造血が上昇して、CHが現れやすくなるというのがこの研究のメッセージだが、動脈硬化を慢性炎症として捉えると、あまり新鮮な気はしない。ただ、Apoe欠損動脈硬化モデルマウスを用いて血液肝細胞増殖の動態を調べ、造血幹細胞が上昇し、さらにBrdUの取り込みが上昇していることを示したデータは私には新鮮だ。

さらに、骨髄穿刺で採取した細胞を、正常人と動脈硬化の患者さんで比べ、動脈硬化があると、造血幹細胞の中のKi67増殖細胞が2倍近く高まっていることを示している。

残念ながら動脈硬化と造血上昇の間を繋ぐ分子メカニズムについては全く解析できておらず、あとは血液幹細胞の増殖動態と、CHの関係を検討して、

  • 動脈硬化の患者さんでは、従来知られているドライバー変異ではない、装飾には中立と考えられる変異を持ったクローンの比率が高まっており、造血自体が動脈硬化で上昇している。
  • Tet2ノックアウトによりCHが起こりやすくなった細胞を移植する実験で、動脈硬化マウスでは増殖速度が高まる。
  • 同じような効果は、動脈硬化だけでなく、睡眠を持続的に中断させることでも起こる。

などを示しているが、同じことの繰り返しで、あまり意味がないように思う。

繰り返すが、よくCellに採択されたなと驚くが、動脈硬化のみならず、炎症ストレスの恐ろしさを示す意味では考えさせられた。

カテゴリ:論文ウォッチ

3月1日 肉食恐竜のボディーサイズが2分している謎を探る(2月26日号 Science 掲載論文)

2021年3月1日
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この年まで、恐竜に興味を持ったことはほとんどない。実際恐竜の名前となるとTrex以外ほとんど出てこないし、自然史博物館に行っても、「ほー」と眺めながら素通りになる。しかし、今日紹介するニューメキシコ大学からの論文を読んで、化石しか手がかりがなくても、生態学といっていいレベルのデータ蓄積が進んでいることを知って感心した。タイトルは「The influence of juvenile dinosaurs on community structure and diversity(幼若期の恐竜が恐竜社会の構造と多様性に影響を及ぼす)」で、2月26日号のScienceに掲載された。

ここからはど素人の立場で解説してみよう。

なんと世界には4040万以上の分類群のデータが集まる古生物データベースがある。これを活用すれば、恐竜の謎についても科学的解析が可能だ。子供に人気の恐竜にはいくつかの謎がある。例えば、草食恐竜に比べると、肉食恐竜はなぜ種が多様なのかは有名な謎だが、もう一つ研究者が議論してきた謎の一つが、恐竜のサイズが小さい恐竜と大きな恐竜に2分して、中間がいないという謎だ。

これにチャレンジしたのがアリゾナ大学のグループで、同じ時代に存在した恐竜のサイズの全世界レベルの分布と、生態調査が進む各地域での分布を比べてみた。すると、草食恐竜では世界的分布と地域の分布でそれほど差はなかったのに、肉食恐竜になると、限られた地域で見ると、世界的傾向を遥かに超える大きい恐竜、小さい恐竜の2極化がはっきりとして、100kgから1000kgの大きさの恐竜がほとんど存在しない。

この傾向は、ジュラ紀から白亜紀に進むとますますはっきりしてくる。この原因の一つは当然餌としての草食恐竜の生態にあるが、おそらく草食恐竜が子供も交えた集団で移住する習性は中型恐竜のプレッシャーになった可能性は大きい。その結果、ジュラ紀には雑食恐竜や、魚を食べる恐竜が進化している。

これに加えて、アリゾナ大学のグループが提案したのが、白亜紀に入ってTrex型の大型恐竜が栄え始めると、大型恐竜の子供が、中型恐竜の餌を奪ったため、それぞれの地域から中型恐竜が駆逐されたのではないかという仮説だ。もう少し説明すると、Trexは卵から孵化した直後は極めて小さいサイズで、そこから16ー19年で巨大恐竜へと成長するため、徐々に淘汰されるとはいえ、幼若期の恐竜自体が、中型恐竜として成体とは異なる餌を捕食することで、中型恐竜を駆逐したと言う話だ。

この可能性を示すため、やはりデータベースで白亜紀の肉食恐竜の成熟前のボディーマスを計算し、白亜紀肉食恐竜では生体に対して、ほとんど60%以上のボディーマスを占めることを示している。

ともすると古生物学では、成体を基盤に生態系を考えてしまうが、実際には子供も含めて生態系を考えることが重要であることを教えてくれた。全く恐竜ど素人にも面白い論文で、恐竜ファンの子供には是非伝えたい。

カテゴリ:論文ウォッチ
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