動脈硬化症を血管の炎症として捉えることを提唱したのはPeter Libbyだったと思うが、これがきっかけになって、糖尿病、肥満まから老化まで、炎症という枠組みで捉え直すことが進み、インフラマゾーム概念の確立の結果、最終的に細胞死と、IL1βなどのサイトカインの放出という炎症の仕組みは、血液以外の多くの組織細胞に広がることになった。
これが頭に入ってしまうと、何が起こっても炎症で説明できるようになった。高齢になると、血液だけでなく、様々な組織細胞で増殖性が少し高まったクローン増殖が見られることが知られているが、検出のしやすさから圧倒的に血液で研究が進み、クローン性造血(CH)がDNA メチル化やヒストン修飾因子の変異が高頻度で見られることも明らかになっている。
これまで、CHが動脈硬化の人でより高頻度に見られることが知られているが、これがCHによる血液側の炎症に起因するのか、逆に動脈硬化という炎症に起因してCHが起こるのかが議論されていた。
今日紹介するハーバード大学からの論文は動脈硬化という全身の炎症が造血自体を高めることでCHが起こることを理論と簡単な実験で示した研究で、正直よくCellに採択されたなという印象だが、炎症と造血という点では面白いので紹介することにした。タイトルは「Increased stem cell proliferation in atherosclerosis accelerates clonal hematopoiesis (動脈硬化による血液幹細胞の増殖上昇によりクローン化造血が促進される):だ。
動脈硬化により、造血が上昇して、CHが現れやすくなるというのがこの研究のメッセージだが、動脈硬化を慢性炎症として捉えると、あまり新鮮な気はしない。ただ、Apoe欠損動脈硬化モデルマウスを用いて血液肝細胞増殖の動態を調べ、造血幹細胞が上昇し、さらにBrdUの取り込みが上昇していることを示したデータは私には新鮮だ。
さらに、骨髄穿刺で採取した細胞を、正常人と動脈硬化の患者さんで比べ、動脈硬化があると、造血幹細胞の中のKi67増殖細胞が2倍近く高まっていることを示している。
残念ながら動脈硬化と造血上昇の間を繋ぐ分子メカニズムについては全く解析できておらず、あとは血液幹細胞の増殖動態と、CHの関係を検討して、
- 動脈硬化の患者さんでは、従来知られているドライバー変異ではない、装飾には中立と考えられる変異を持ったクローンの比率が高まっており、造血自体が動脈硬化で上昇している。
- Tet2ノックアウトによりCHが起こりやすくなった細胞を移植する実験で、動脈硬化マウスでは増殖速度が高まる。
- 同じような効果は、動脈硬化だけでなく、睡眠を持続的に中断させることでも起こる。
などを示しているが、同じことの繰り返しで、あまり意味がないように思う。
繰り返すが、よくCellに採択されたなと驚くが、動脈硬化のみならず、炎症ストレスの恐ろしさを示す意味では考えさせられた。