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8月4日 TSLP、皮脂増加、そして体重減少:風が吹けば桶屋が儲かる例(7月30日 Science 掲載論文)

2021年8月4日
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免疫システムは全く予想できない生体プロセスに関わっている例があるが、今日紹介するペンシルバニア大学からの論文はそんな例だろう。タイトルは「Thymic stromal lymphopoietin induces adipose loss through sebum hypersecretion(胸腺ストロマ細胞リンフォポイエチンは皮脂の過剰分泌を介して脂肪組織を減少させる)」で、7月30日号のScienceに掲載された。

タイトルにあるTSLPは、胸腺ストローマ細胞から産生されるサイトカインで、現役時代IL-7とIL-7Raについて研究していたことがあるので、同じIL-7Raに結合するサイトカインとしてその頃から興味を持っていた。ただ、最初考えていたように、リンパ球の産生分化に関わるというより、最近では様々な炎症とTSLPとの関わりに焦点が移っているように思う。

著者らはTSLPが抑制性T細胞(Treg)を増加させ、またTregが肥満を抑えるというこれまでの研究にヒントを得て、TSLPが肥満を抑えるのではと着想し、TSLP遺伝子をアデノ随伴ウイルスベクターに組み込んでマウスに投与すると、皮下脂肪や内臓脂肪が低下し、その結果インシュリン感受性も高まり、何よりも体重が30%以上低下する。また、脂肪肝発生を強く抑えることができる。

最初この体重減少がTSLPによる炎症による結果ではないかと、組織学的に調べても明確な炎症像はないが、T細胞がTSLPに反応して起こる減少で、抗原は関与せず、TSLPに反応できるT 細胞ならこの現象を誘導できることを明らかにしている。

おそらく様々な可能性が追及されたと思うが、一般的な代謝の上昇では説明がつかず、最終的にTSLPを投与すると皮膚が脂ぎってくることに気づき(かなり観察力が鋭いと思う)、皮膚の脂肪が3倍近く上昇することから、皮脂腺からの脂肪分泌がTSLPに反応したT細胞により刺激され、その脂肪をリクルートするために、脂肪組織から脂肪酸が移動すると結論している。

シナリオにまとめると、TSLP、T細胞刺激、皮脂腺細胞の分化増殖刺激、皮脂分泌増殖、白色脂肪組織での脂肪分解、そして体重低下、という順番で進む過程で、言われると納得するが、ほとんど、「風が吹けば桶屋が儲かる」と同じぐらいの、予想もしない過程になっている。

これはTSLPを過剰投与するという人工的条件で行われた実験だが、TSLP受容体をノックアウトしたマウスを用いると、皮脂腺細胞の増殖低下と、脂肪分泌の低下が見られることから、正常でもTSLPと反応するT細胞により、皮脂腺による皮脂の分泌が維持されていることも示している。

著者らは、この回路により、皮脂だけでなく、皮脂中の抗菌物質も分泌され皮膚が守られている可能性を示唆しているが、今後、ヒトでも同じことが言えるのか、あるいは様々な皮膚炎などの病理的状況でこの回路はどうなっているのかなど、知りたいことは多い。

いくら考えても不思議な過程だ。

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