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8月13日 海馬を介した血糖調節機構(8月11日 Nature オンライン掲載論文)

2021年8月13日
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昨日に続いて、ちょっと風変わりな糖代謝の論文を取り上げようと思っている。というのも、私は全く気づかなかったが、今年はインシュリン発見100周年ということで、Nature Medicineが特集レビューを掲載していた。このレビューは、インシュリンの発見から、Eli Lilly社の助けによる薬剤としての確立、そしてこの発見が世界中の多くの人の命を助けると知ったトロントのインシュリン発見者たちが、なんと彼らの特許を1ドルで売ったというドラマから、インシュリン薬の進化、さらに1型糖尿病についての治療法の進化などが紹介されている。医学生の一読を勧める。

さて、今日紹介するニューヨーク大学からの論文は最初に仮説ありきの典型研究で、脳の海馬の興奮と血中グルコースの関係を調べている。タイトルは「A metabolic function of the hippocampal sharp wave-ripple (海馬の鋭波リップルの代謝調節機能)」だ。

この研究では、予測される活動に前もって代謝調節機能を備えておくためには、脳を通して調節するしかなく、そのためには海馬のように多くの領域からインプットとアウトプットを受ける領域の関与が必須であると仮説を立てて研究を始めている。

活動のための代謝調節といえば、まず最初に来るのが当然インシュリンとグルコース代謝になるので、海馬のCA1領域の興奮と血中のグルコースを連続モニターし、両者に関係がないかどうか調べている。

海馬では1ヘルツ程度の大きな脳波に重なって、80−100ヘルツの短い波が重なったsharp wave rippleと呼ばれる興奮パターンが見られる。これは、ノンレム睡眠時に多く見られ、記憶の呼び起こし(https://aasj.jp/news/watch/11119)に関わる可能性を示唆した論文を以前紹介した。この研究のハイライトは、著者の期待通り、このsharp wave ripple(SWR)の出現頻度と、血中グルコースレベルが、逆相関することの発見だ。すなわちSWRの頻度が高まった後は、グルコースのレベルが低下することになる。

これを確認する意味で、今度は光遺伝学を用いて海馬に人工的にSWRを発生させる実験を行い、グルコースレベルが低下することを観察する。

最後に、海馬CA1からの回路を探索し(これも仮説に基づいて調べている)、海馬と下垂体をつなぐ外側中隔核を、やはり遺伝子工学的に発現させた神経抑制システムを用いて抑制すると、SWRとグルコースのレベルの結合が低下することを示している。

結果は以上で、考えてみれば血中グルコースを調節するインシュリン、グルカゴンもホルモンで、自律神経により調節されると考えると納得できる話だ。

いずれにせよSWRが深いノンレム睡眠で多発することを考えると、本当は寝ているときのリラックスに役立っているのかもしれない。

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