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8月28日 ウォレーシアで見つかった人類(8月25日 Nature オンライン掲載論文)

2021年8月28日
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中東を通ってホモサピエンスがユーラシアに進出したのは4−5万年前だが、アラビア、インド、インドネシア、オセアニアにかけての南ルートは、ネアンデルタール人のような抑止力がなかったせいか、ずっと早くにホモサピエンスが進出し、ユーラシアとオセアニアの境、ウォレス線を渡ったのは6−7万年前と遙かに早い。この人たちの痕跡はパプアニューギニア人などに残っており、また絵や石器などが残されていても、高温多湿な気候のせいで、ゲノムが得られる遺跡が見つかっていなかった。

今日紹介するドイツ、イエナ・マックスプランク研究所を中心とする国際チームの論文は、ウォレス線を越した側のスラワジ島、Leang Panningeの発掘現場から発見された7千年前の女性の人骨からDNA採取に成功し、おそらく南ルートを通ってきたホモサピエンスの子孫であることを証明した研究で、8月25日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Genome of a middle Holocene hunter-gatherer from Wallacea(ウォレシアから出土した中期完新世狩猟採取民のゲノム)」だ。

ウオレス線の東側は、謎のフローレンス人が出土したり、最近では1万年前ぐらいまでデニソーワ人が生存していた証拠が出るなど、人類史研究のホットスポットになっているが、ゲノム考古学をリードしてきたドイツチームがすでに活動して成果を上げ始めているのには感心した。

いずれにせよ、このような発掘は考古学とゲノム科学の密接な連携が必要で、おそらく限られた領域で発見される特徴のある石器から、ユニークな文化(Toalean文化)を代表しており、これまでとは異なる系統のホモサピエンスが発見できるのではと期待して、発掘を進めてきたのだと思う。

そしてついに、17歳前後の女性の頭部の骨を発見できた。骨の形状からは、メラネシア人に類似しており、南ルートの末裔ではないかと期待が膨らんだはずだ。

やはり高温多湿地帯のため、7千年前の骨でも傷みが早く、到底全ゲノムというわけにはいかないが、大体30万SNP部位を解読でき、これとミトコンドリアゲノムの配列を、これまで知られているゲノムと比較している。

その結果、

  1. ウオレス線西側の民族と、ウオレス線東側の民族のちょうど中間に、今回のゲノムが位置しており、オンゲ族や天元人とパプア人が半々に混ざった構成をとっていることがわかった。
  2. デニソーワ人ゲノムは、パプア人と比べると低いが、一般より高い割合(2.2%)で存在しており、パプア人とLeang Panninge人の共通祖先の段階で、交雑があったと考えられる。
  3. 以上の結果から系統関係を構築すると、Leang Panninge人はパプア人と同じ南ルートで広がったホモサピエンスと、天元人/斎河人のゲノムを半々に持つ民族が形成され、その後あまり交雑なく小さな領域でToalean分化を維持した。

以上の結果は、パプア人ルートと、天元人のような南アジアの民族との交流がかなり昔からあったことを示している。いずれにせよ、この地域の古代ゲノム研究は始まったばかりで、期待される。

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