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8月19日 HDAC3阻害剤はガンのネオ抗原発現を上昇させ免疫治療を助ける(8月16日 The Journal of Clinical Investigation 掲載論文)

2021年8月19日
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21世紀に入って、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤は様々なガン治療に使われ始めている。個人的には、多くの分子がHDACの対象になること、および多数のHDACが存在するため、完全に機能を押さえることが難しいことから、効果に疑問を持ってはいるが、ガンによっては高い効果を示すケースも示されてきた。例えば皮膚に浸潤するT細胞リンパ腫(CTCL)では3割の患者さんが一度は完全寛解を達成する。

最初これらのHDAC阻害剤はガンの増殖進展に関わる分子のエピジェネティックな調節機構を介して効果を示すと考えられてきたが、免疫チェックポイント治療が普及し、HDAC阻害剤がその効果を高めることが知られるようになり、ガンだけでなく、ガン周囲組織や免疫系のエピジェネティックスに作用することもわかってきた。この結果、現在HDAC 阻害剤と抗PD−1抗体などを組み合わせた臨床治験が進んでおり、チェックポイント治療のパートナーとして定着する予感がする。

今日紹介するノースカロライナ大学からの論文はマウス膀胱ガンをモデルに、HDAC3 阻害剤がガンネオ抗原の発現を高め、ガン免疫を高める可能性を示した研究で、現在進むチェックポイント治療とHDAC 阻害剤の治験を側面から援護する研究だ。タイトルは「Entinostat induces antitumor immune responses through immune editing of tumor neoantigens(Entinostatは腫瘍ネオ抗原を編集することでガン免疫反応を誘導する)」で、8月16日号のThe Journal of Clinical Investigationに掲載された。

まずマウスモデルで、HDAC3阻害剤entinostatが、免疫系が存在する場合のみガン抑制効果を持つこと、またentinostat投与マウスガン組織ではCD8キラー細胞が上昇していることを確認した後、この腫瘍が発現している922種類のガンネオ抗原がentinostat投与でどう変化するか調べている。

試験管内でentinostatを処理すると、期待通りガンのネオ抗原の発現は高まる。一方、腫瘍を移植した後entinostatを処理した腫瘍では、逆にガンのネオ抗原の発現が強く抑制されている。すなわち、ネオ抗原を発現したガン細胞がキラーT細胞により除去されていることが示唆されている。これを裏付けるように、試験管内でentinostat処理したガン細胞は、よりキラーT細胞に感受性を示す。またにガンに浸潤するT細胞でいくつかのネオ抗原特異的T細胞の数を調べ、確かにネオ抗原特異的免疫反応が高まっていることを確認している。

以上の結果に基づき、最後にentinostatとPD-1抗体を組み合わせたガン治療実験を行い、チェックポイント治療を組み合わせることで完全にガン細胞を除去する確率が大幅に高まることを示している。

以上が結果で、膀胱ガンでもHDAC阻害剤とチェックポイント治療の組み合わせの治験が急速に進む予感がする。長く期待されてきたガンのHDAC阻害剤治療も新しい衣を着て大きく進展すると期待している。

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