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8月20日 新型コロナウイルス制圧に向けたgood news 2(8月11日号 Nature Structural and Molecular Biology オンライン掲載論文)

2021年8月20日
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AASJの事務所は自宅から数分の距離だが、三宮駅の近くに位置している。行き帰り、いそがしい町の人通りを毎日目にするが、いつも通りの平和な風景だ。ところが帰宅した後、テレビで報道される自宅療養(というより自宅放置)の悲劇の切迫感を聞くと、町の風景とのギャップは大きい。どちらが現実かと戸惑うが、自宅放置感染者が東京で3万人を超えているとすると、大災害に見舞われているという方が現実なのだろう。同じような非日常的な切迫感が我が国全体を覆った3.11を思い返すと、今は難局への協力を訴える政府自体の切迫感も欠けているように思う。せめて、大臣皆が作業着を着て陣頭指揮するぐらいの演出がないと、人の気持ちは変わらない。

このような演出の欠落を見ると、要するに政府に適切にアドバイスする人材がいないのか、適材適所ができていないことを実感する。現在の課題は、法定伝染病としての医療体制が崩壊した現状で、自宅放置者に適切な医療を届けることだ。政府の手持ちはワクチンと、リジェネロンの抗体カクテルだが、もう一つ大事なのは、国民に届けられる有効な新しい介入手段を洗いだし、いち早く調達してくるタスクフォースだろう。

多くの方はすでに読まれたのではと思うが、上のレポートは、英国のワクチンタスクフォースの活動を評価した英国のレポートだ。驚くのは、これを一種の経産省が行っている点で、根拠なしの感覚だが、これも適材適所が根付いている証拠のように思える。

そして何よりも、評価の対象になったワクチンタスクフォースの議長に、バイオ企業のことを知り尽くし、密接な交流を持つ英国のベンチャーキャピタリストKate Bingham(https://en.wikipedia.org/wiki/Kate_Bingham)が選ばれ、その任期の6ヶ月で、英国での数種類のワクチン調達を実現し、最後にその活動を評価まで行って使命を終えている点だ。いずれにせよ、ただ科学知識があるというのではなく、世界中の業界に顔の利く人材を選んだ適材適所は素晴らしい。

ともかく災害に対応するにはその場しのぎだけでなく、近い未来も想定した必要な課題をリストして、それを半年単位で解決する冷静なタスクフォースが重要になる。今からでも遅くない。素晴らしいタスクフォースができることを期待したい。世界には調達したい多くの技術が存在する。

例えば現在リジェネロンの抗体カクテルに期待が集まっているが、回復患者血清を用いた治療から考えると、抗体による変異株誘導の危険性は常に考える必要がある。その意味で、変異株はもとより、ほとんどのコロナウイルスに効果があるモノクローナル抗体の開発が進んでおり、変異出現の選択圧になる危険は少ない(https://aasj.jp/news/watch/17067)。そのうちの一つGSKのsotrovimabは、δ株にも有効で欧州ではすでに認可されている(https://jp.gsk.com/jp/media/press-releases/2021/20210604_gsk-and-vir-biotechnology-announce-sotrovimab/)。この抗体は、元々新型コロナウイルスではなく、SARSウイルスに対する抗体から分離され、Covid-19にも有効性が確認されており、最初からsarbecovirus全般に効果が期待される。新しい変異株出現も予想して、我が国のタスクフォースがこのような抗体を調達できることを期待する。

うれしいことに、我が国も第3相国際治験に参加している飲み薬の一つにメルクのMolnupiravirがある。感染が確認されたらすぐに服用できる飲み薬で、系列としてはレムデシビルと同じで、ウイルスのRNA合成で取り込まれて、突然変異を多発させ、ウイルス増殖を抑える効果がある。おそらくこれは現状に最もマッチした薬剤で、我が国で治験が行われていることは期待できる。

Molnupiravirが、レムデシビルやアビガンと比べたとき、より期待できることを示す生物学については、8月11日にNature Structural and Molecular Biologyオンライン掲載された、ドイツゲッティンゲンのマックスプランク研究所から発表された論文を読むとよくわかる。

まず経口投与可能で、日本メルクも発表しているように、感染がわかった時点で自宅で5日服用すればよい。服用すると、ウイルスのRNA合成酵素により認識され、CTPやUTPの代わりにウイルスRNAに取り込まれる。そして、MTPを取り込んだ鋳型は今度は、GやAともペアリングしてしまうため、どんどん突然変異の数が増え、翻訳レベル、および複製レベルでウイルスの活動を抑え込むというメカニズムだ。

MTPの優れている点は、取り込まれたとき、RNA合成酵素システムを止めないことで、Mを取り込んだRNAが完成して、指数的に異常RNAを増やしていく。この点で、RNA合成酵素が止まってしまうレムデシビルやアビガンと決定的に異なり、耐性もできにくいと想像できる。治験結果が待ち遠しいし、規制当局も今から情報を集めて、迅速な認可が可能になるよう準備してほしいものだ。

これに少し遅れて、メインプロテアーゼ阻害剤がファイザー、塩野義により開発され、治験が進んでいる。おそらく中国からも出てくる(https://aasj.jp/news/watch/15255)。国産にこだわらず、可能性はすべて我が国でも治験を進める必要がある。実際、自宅放置者が増加している今こそ、我が国は治験の中心地になれるのではないだろうか。

最後に、ワクチン3回目接種の話が出ているが、これを考えるとき面白い論文がオックスフォード大学から8月18日号のScience Translational Medicineに掲載された。

これはすべて動物実験の話だが、しかし時間スケールとしてはこれから半年を視野に入れるタスクフォースの課題にもなり得る。

研究は、今使われているアストラゼネカのワクチンを鼻から注入することで、筋肉注射より強い肺炎予防効果が得られることを示している。ともかく一回投与で、今拡大中の肺炎を抑えることは可能かもしれない。特に、アストラゼネカワクチンは、我が国で行き場を探している。公衆衛生学的に重要なのは、鼻から免役することで、気道からのウイルス分泌を強く抑えることができる点で、新しい変異株への効果は不明だが、考慮に値する。同じことがmRNA ワクチンでできるかどうかわからないが、個人的感触だがあらゆる細胞に感染できるアデノウイルスの方が優れているように思う。

ほかにもこの一週間だけで、新型コロナの明るいニュースは数多く発表されている。是非そのような中から国民にいち早く提供できる技術を調達するタスクフォースが我が国にもできるのを期待したい。

最後に、ワクチン3回目に一言。現在のmRNAワクチンはスパイクpre-fusion form に蓋をする抗体を誘導するので、比較的変異体にも対応はできる。また、T 細胞の反応は将来の変異体もカバーできる。ただ、変異体の出現が起こる以上、同じ配列で対応するのではなく、ワクチン認可の際、臨機応変に変異体の配列に変えた核酸ワクチンを迅速に認可する仕組みを用意しておくのも、重要な課題だと思う。

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