脂肪組織写真を見ると、細胞質が脂肪で周りに押しつけられた大きな脂肪細胞が集まった均一な組織に見える(例えば:https://www.researchgate.net/figure/Histology-of-the-epididymal-white-adipose-tissue-WAT-of-mice-in-the-a-low-fat-LF_fig2_236925039)。ところが今日紹介するスウェーデン・カロリンスカ研究所からの論文は、この均一に見える組織に、20種類の異なる細胞が組織化され、インシュリンに対する反応もこの組織化された構造の中で行われていることを示す研究で、今後の脂肪代謝の研究に重要な示唆を与えている。タイトルは「Spatial mapping reveals human adipocyte subpopulations with distinct sensitivities to insulin(脂肪組織の空間的マッピングによりヒト脂肪細胞サブセットの異なるインシュリン感受性が明らかになった)」で、9月7日号のCell Metabolismに掲載されル予定だ。
この研究は以前紹介した(https://aasj.jp/news/watch/5490)、カロリンスカ研究所で開発された、組織構造を壊さずにそれぞれの細胞の遺伝子ライブラリーを作成し遺伝子発現と組織の空間情報を合体させる方法を用いて、均質に見える脂肪組織上で遺伝子発現マップを作成している。
後はこの解析だが、組織上での遺伝子発現マップのおかげで、均質に見える脂肪組織に少なくとも20種類の異なる細胞が存在し、それもただランダムに存在するのではなく、特定の細胞同士が集まっている。例えば、脂肪細胞は3種類のプレアディポサイトと3種類の白色脂肪細胞(WAT)に分けられるが、プレアディポサイトのうちの一つは、M2マクロファージと隣接しており、一種のニッチが形成されている。
もちろん解析の焦点は、全く均質に見える白色脂肪細胞で、それぞれレプチンを発現したWATlep, ペリリピンを発現したWATpln、そして血清アミロイドを発現したWATsaaの3種類にきれいに分けることができる。実際、組織からWATの細胞浮遊液を作成して抗体で染めると、発現が完全に分離している3種類の細胞が特定できる。
つぎに、それぞれの細胞の機能的違いを調べる目的で、大きさや、肥満などとの関係を調べている。それぞれのサブセットに大きさの違いはあるが、差はわずかで、細胞の大きさでサブセットが決まっているわけではないことがわかる。
一方、肥満との関係を見るとBMIの高いヒトほどWATlepが上昇し、WATplinが低下している。そして驚くことに、WATplinだけがインシュリンに対して誘導される脂肪合成遺伝子の発現と高い相関を示していた。
もちろんすべてのWATは脂肪を蓄えており、脂肪代謝と蓄積のメカニズムを持っているのだが、この結果はインシュリンにすぐに反応する細胞はWATplinだけであることを示唆している。
この結果をはっきりさせるために、インシュリンクランプを行ったボランティアの脂肪組織を採取し、インシュリンに対する2時間目の反応を遺伝子発現で調べると、WATplinのみで様々な脂肪合成遺伝子が誘導される一方、ほかの2種類の細胞でインシュリン反応性に誘導される遺伝子はほとんど存在しないことが明らかになった。
結果は以上で、それぞれのWATの分化がどのように調節されているのかなどさらに詳しく調べる必要があるが、なんといっても一部のWATしかインシュリンに反応せず、またそれがレプチンを分泌するWATと異なるという結果は驚きだ。
また、時間はかかってもこの技術が着実に成果を上げていることも実感した。