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8月27日 言葉を聞くときの神経活動のマッピング(9月2日号 Cell 掲載論文)

2021年8月27日
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昨日はコウモリの赤ちゃんの言葉の話だったが、今日は大きくジャンプして、人間の成人の言語処理に関する論文を紹介する。

言語に関わる脳領域というと、運動失語に関わるブロカ領域や感音性失語に関わるウェルニッケ領域をはじめとする、高次情報処理に関わるプロセスを思い浮かべるが、それより前に、音を感知して、言葉か単純な音かの判断を、一次聴覚領域である程度済まさないと、刻々入ってくる複雑な言語情報を処理することは困難だ。しかし、時間解像度の高い脳波計では正確に活動計測が難しい領域であることから、音を聞いた直後の言語処理ネットワークについては以外と研究は遅れている。

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、脳の大きな溝、シルビウス溝下部の一次聴覚野全体に、てんかん診断のための留置クラスター電極を設置した患者さんを用いて、言葉を聞いたときの各領域の反応を計測し、それぞれの神経の特異性をマッピングした研究で、9月2日号Cellに掲載された。タイトルは「Parallel and distributed encoding of speech across human auditory cortex (人間の一次聴覚野の言語の平行分散型処理)」だ。

この研究は、9人のボランティアのシルビウス溝下部側頭葉の一次聴覚野(6領域に分けているが名称などは割愛する)にクラスター電極を設置して、ただの音や言葉を聞かせた時の活動を計測し、記録するだけの実験だ。電極が設置された領域に刺激を与えた時のネットワークへの影響も調べているが、基本的には多くの電極から得られたビッグデータを情報処理して、一次視覚野の言語処理過程を推察する研究になる。

9人のうち5人は、手術中に実験を行っている。9人全体で、総数636カ所からの活動記録が得られており、それぞれの神経の活動特性を全て総合して解析している。

課題は簡単で、単純な音を聞かせた時、および、短いセンテンスを聞かせた時の、それぞれの電極が拾った記録をベースに、音が感知されてから、どのように神経興奮が伝搬しているのかを、それぞれの神経の興奮時間を元に計算していく。すなわち、早く興奮したところが最初の知覚で、そこから他の神経に広がると、時間差が生まれるので、時間経過からどう伝搬しているかがわかる。

これまで、蝸牛の配置に対応するコア領域(HG)でまず音が感知され、他の領域へ伝搬する中で言語であることの判断など、様々な処理が行われると考えられていたが、今回の研究により、言葉を聞かせた時の興奮経過を調べると、HGだけでなく、PTやSTG(名前の説明は割愛する)にも、HGとほぼ同時に興奮する神経があり、シグナル処理がいわゆる並行処理型で行われることが明らかになった。

そして、単純な音、あるいは言語に対する神経活動を分析すると、言語だけに反応し処理に関わる神経が存在すること、そして言語でも、音節の始まりに反応する神経、絶対的ピッチに対応する神経、相対的ピッチに対応する神経、などが存在し、個々の神経が異なる情報処理を専門的に行うことがわかる。

重要なのは、これらが一次聴覚野の決まった領域に固まって存在しているのではなく、それぞれの領域に分散的に存在していることで、それぞれの音を迅速に処理することに役立っていると思われる(絶対ピッチに関わる神経だけはTPにクラスターしている)。

階層的ではない並行処理が本当に行われているのか調べる目的で、階層的な処理の場合、必ず通過する必要のある最初の入り口としてのHGに電気刺激を行う実験を行うと、刺激により幻聴は生じるものの、言葉の聞き取りに全く影響ないことがわかる。またてHGにあるてんかん巣を取り去った患者さんでも、幻聴は消失したのに、言葉の理解は全く傷害されなかった。一方で、2次処理に関わるSTG領域の刺激は、言葉の認識を傷害することも示している。

繰り返すと、この研究から、おそらく言葉や音楽のような複雑な音を処理するために、聴覚神経がHG意外にも投射しており、このようなインプットを、散在する特殊な機能に特化した神経が処理する、分散型並行処理が言語理解の脳ネットワーク構造であることが示唆されている。

実際には、ビッグデータの情報処理研究なので、ついて行くのは難しかったが、なるほどと納得できる論文だった。

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