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9月2日 Responsive neurostimulation systemによるてんかん治療の原理(8月25日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2021年9月2日

電極を脳内に留置して、刺激により様々な異常を補正するneurostimulation療法は、心臓のペースメーカー療法並みに普及して、根本治療ではないが、対症療法として定着している。特にパーキンソン病など異常運動や疼痛抑制など、その範囲は広い。ただ、てんかん時の同調した神経興奮を抑えるためにneurostimulationが開発されているのは全く知らなかった。

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、現在行われている局所の脳波異常を記録しながら発作を探知し、刺激でそれを抑えるresponsive neurostimulation system (RNS)が効果を発揮するメカニズムを、同じデバイスで記録した興奮を詳しく分析することで明らかにし、より効果的な刺激方法を開発しようとした研究で8月25日号Science Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Long-term brain network reorganization predicts responsive neurostimulation outcomes for focal epilepsy (長期にわたる脳神経ネットワークの再構築が焦点性てんかんのNRS治療効果を予測する)」だ。

NRSは深部電極とは異なり、神経細胞に電極を挿入するのではなく、脳内ではあるが脳の外に刺激と記録をかねたデバイスを設置する。このため、ペースメーカーと同じように長期間の使用が可能だ。すなわち、てんかん発症にいたる脳波を検知して、一定の領域を刺激して、それぞれの神経に独自性を与えて興奮させることで、同調を止めるという原理と考えられてきた。

この研究では、この治療に反応する人と、反応しない人がはっきり分かれてしまう点に着目し、効果がある場合は、てんかんの焦点を形成する細胞と結合する神経ネットワークの結合性が低下しているのではないかと考えた。

これを証明するため、長期間設置したNRSデバイスで記録できる神経興奮を、領域間の同調性、すなわち結合性という視点で分析し直し、RNS治療を繰り返すうちに、てんかん巣内の低波長の神経結合性が低下する一方、外部との体は腸の結合性が上昇すること、逆に治療が成功する人ではてんかん巣内の高い波長の結合性が増強するようプログラムされることを明らかにした。

すなわち、ペースメーカーのように、人工シグナルだけでてんかんを制御するのではなく、時間をかけててんかん巣内で過興奮をとどめるようにネットワークがプログラムされ直すことが、治療効果に作用することを結論している。

そして、このリプログラムされる程度が、異常興奮を察知しておこるNRSでの刺激数に依存しており、今後さらにプログラムし直すことを目的とした刺激法や波長を工夫することで、この治療が効果を示さない人たちにも利用できるようになるのでは議論している。

この論文は、全く知らないことを学んだというだけでなく、直接電極を挿入しなくとも、領域記録と刺激をリンクさせた方法で、神経ネットワークを刺激依存的にプログラムし直せる可能性を示した点で期待できる。この領域のAI依存性はすさまじい勢いで進んでいることも実感した。

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