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9月22日 私の個人的な妄想をかき立てる日本人のゲノム史(9月17日号 Science Advances 掲載論文)

2021年9月22日

すでに多くのメディアにより報道されているので読んだ方も多いと思うが、日本人の起源について、これまで私が持っていた理解よりさらにドラマチックな可能性を示唆する論文が、ダブリン大学、金沢大学から共同で9月17日Science Advancesに掲載されていた。

メディアでは、現代日本人のゲノムが、南から日本に定住しその後大陸との交流なく独自に進化した縄文人、その縄文人と北東アジアから渡来した大陸人と交雑により形成された弥生人、そして東アジアから渡来した大陸人と弥生人の交雑した古墳時代人と、3種類のゲノム起源から形成されていることが報道されているが、論文を読んでみると、もっとドラマチックな歴史があるように感じたので紹介する。タイトルは「Ancient genomics reveals tripartite origins of Japanese populations(古代人ゲノムは日本人集団が3種類のゲノム起源を持っていることを明らかにした)」だ。

この研究では、これまで東大・太田さん、国立博物館・篠田さんが解読した縄文や弥生人のゲノムに加えて、新たに縄文人9人、そして何よりも解読が進んでいなかった約1300年前の古墳時代人3人のゲノムを加え、日本の先史をカバーして日本人の成立を調べている。

ただ問題は、発表された弥生人のゲノム解読カバー率が極端に低いことで、今後弥生、古墳時代人の解読を進めることの重要性を示している。

その上で解読した3時代のゲノムを比べ、以下の結論を得ている。

  1. この研究で9体の縄文人ゲノムが加わった結果、これまで限られた縄文人とアジア人の比較から考えられてきたように、東南アジア起源ゲノムを核に縄文人が形成されたと言うより、東ユーラシアに分布していた人類が日本に渡来し、その後大陸との交流なしに独自のゲノムを進化させたのが縄文人であることを示している。
  2. また、他の民族から隔離された縄文人は、急速な人口減少を経験し、おそらく1000人ぐらいの規模で生活していたことが、ゲノムの同一配列長解析から示された。
  3. ここで使われた弥生時代のゲノムは、カバレージが少ないという問題があるが、従来考えられていたような東中国より、農耕が発達していなかった北東中国のゲノムに近い。いずれにせよ、縄文人のゲノムの比率が高いことから、渡来した人たちが徐々に同化していったことを示している。
  4. そして、今回新たに加わった古墳時代人ゲノムは、私たちが弥生人がそのまま進化したという可能性を見事に打ち砕いた。まず、古墳時代人ゲノムは現代日本人ゲノムとほぼ等しい。そして、縄文人ゲノムと北東アジアが混合した弥生人ゲノムを3割強持っている。しかし、残りはそれまで日本に存在しなかった黄河流域の青銅器時代から鉄器時代のゲノムで置き換わっている。すなわち、弥生から古墳時代の間に、大きなギャップがあり、これまでとは異なる大陸人との交雑が急速に進んだことを示している。

以上が結果で、著者らは、弥生人の形成が大陸人の同化により起こったと結論した上で、古墳時代人の形成が大陸人の大規模なセツルメントにより起こったと、言葉を選んで抑制的に述べるにとどめている。

しかし、データを見た時の勝手な個人的印象を述べるとすると、まさにヤムナ民族が新しい文化と戦闘能力でヨーロッパを席巻したように、弥生時代と古墳時代の間のどこかに、大陸人による日本征服がおこったと考えても良いように思えた。それほど、弥生と古墳時代のギャップは大きい。これは私が勝手に想像しているだけだが、今後研究の最も弱い弥生ゲノムが明らかになるにつれ、この点も含めて日本人形成史が明らかになると思う。

しかし、この論文は総合的で面白かった。我が国でも考古学とゲノム学が融合した総合的な学問が進んでいることを知って、ある意味胸をなで下ろした。

この研究で使われた弥生ゲノムは、国立科学博物館の篠田さんの論文に掲載されたものだが、私が熊本大学医学部に在籍していた時、その篠田さんが、講師の国貞さんの縁で、教室のPCRを利用しに佐賀医大から来ていたのを思い出す。ほぼ35年前の話で、我が国の古代ゲノム研究事始めの一つのページではないかと思う。ようやくそれらの努力が我が国に根付いたことを実感しながら、楽しく読んだ。

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