先週、ウオレス線の東側で発見された7000年前のホモサピエンスが、人類出アフリカ南ルートで移動した民族を代表していることを示したドイツ・イエナマックスプランク人類歴史科学研究所からの論文を紹介したが、なんと同じマックスプランク研究所から、今度は南ルートの起点となるサウジアラビア人類遺跡発掘調査に関する一種の中間報告が9月1日号のNatureに発表された。ドイツ考古学やゲノム考古学の大躍進を目の当たりにすると、シュリーマンの伝統が生きているのでは思える。タイトルは「Multiple hominin dispersals into Southwest Asia over the past 400,000 years(過去40万年にかけて人類の東南アジアへの移動が何度も起こった)」だ。
何度も繰り返すが、ホモサピエンスがイスラエルからヨーロッパ、アジアに進出したのはようやく5万年前の話だが、インドからインドネシア、そしてオーストラリアへのホモサピエンスの進出はそれより前に起こったと考えられている。すなわち、ネアンデルタールと対峙したあと急速に全世界に広がった北ルートとは異なるホモサピエンスの民族形成が、南ルートの解析によりわかるはずだ。
ホモサピエンス最古の骨はモロッコで出土した30万年前のものだが、エチオピアでは約20万年前、UAEでは12.5万年前の遺跡が発見されている。この研究では、サウジアラビア砂漠地帯の中心にある古代の湖、KAMに注目し、発掘を行ってきた。そして、期待通り、異なる時代を反映する地層から、多くの石器や動物の化石が発見され、それについて報告したのがこの論文だ。
今は完全に砂漠化しているKAMは、地球規模の気候変動に合わせて、緑が生い茂った時期が、40万年前、32万年前、20万年前、12万年前、10万年前、7万年前頃に存在し、化石からカバも生息する十分な深さの湖が存在していた。
この研究では、かつて湖だった様々な場所から出土した石器を解析して、どのような人類が存在したのかについて、石器の種類から推察している
ヨーロッパからの石器については以前Sheaさんの本を元に、解説しているので参考にしてほしいが(https://aasj.jp/news/watch/8185)、今回地層の年代測定から、40万年前、30万年前の2つの遺跡から出土する石器は、Acheulian文化に属する石器で、骨が出土していないので確実とは言えないが、ホモサピエンスやネアンデルタール人とは異なる人類、あるいはそのルーツに近い人類が、アフリカから移動してきたことを示すと考えられる。おそらくH.Ergasterと考えていいだろう。
一方、20万年前、13万年前、7.5万年前の遺跡から出土する石器は、イスラエルでホモサピエンス、ネアンデルタールが共存していたLevant文化の石器で、ホモサピエンス、場合によったらネアンデルタール人がこの地に移動していたことを示している。
結果は以上で、今後の発掘で人骨が出るのを期待するが、エチオピアで発掘されたホモサピエンスの骨とほぼ同時期に、おそらくホモサピエンスのサウジアラビア進出があり、13万年、75千年と、このルートを使って何波にも分かれてホモサピエンスが東南アジアからオセアニアへ移動したことを示す遺跡が、新たに発見された。すなわちこのあたりが、南ルートでの人類移動の起点になっている可能性が示された。まだまだ先は長いが、さらに大発見が続く予感がする。