以前紹介したように、先月26日、梅北2期参加型ヘルスケアプロジェクトでは、WHO武漢研究所の調査メンバーを務められた、国立感染症研究所の前田健先生に、新型コロナウイルスと動物感染について話をしてもらい、YouTubeに収録しました。今日ようやくAASJホームページにも公開しましたので、是非ご覧ください(https://www.youtube.com/watch?v=fZUR8WQUkUM)。
この中で、新型コロナウイルスを含む多くの感染性ウイルスが、我々の周りの動物の中で潜伏して、ヒトに感染する機会をうかがっていることを詳しくお話しいただいています。
ただ、流行が収束して患者さんの発生がなくなった後も、場合によっては人間の中でウイルスが潜伏し、次の流行を引き起こす可能性もウイルスによっては示唆されている。この場合、流行後に、感染者集団を、PCRや抗体検査で長期間モニターすることが重要で、例えば、高いレベルで抗体が維持されることが起こったりすると、持続的感染が疑われる。
新型コロナウイルスの場合も、鼻粘膜でウイルスが増殖しているのに、下部気道では全く感染が見られず、しかも抗体治療を受けるまで105日間ウイルスを排出していた高齢者の話を、以前紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/14412)、多くの人が無症状で経過することを考えると、科学的に不可能と片付けないで、人体内での潜伏の可能性を調べることも重要かと思う。
感染様式はコロナウイルスとは全く異なり、人体での潜伏の可能性が高いのがエボラウイルスで、今日紹介するフランスモンペリエ大学とギニアのコナクリ大学からの論文は、今年初めにギニアで発生したエボラウイルス感染の小さなクラスターが、2016年に収束した前回の大流行後、人体に潜伏し続けたウイルスによる可能性を示した研究で、9月15日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Resurgence of Ebola virus in 2021 in Guinea suggests a new paradigm for outbreaks(ギニアで起こった2021年のエボラウイルス感染再発生は新しいアウトブレークのパラダイムを示唆する)」だ。
新型コロナウイルスが猛威を振るっている今年1月、診断がつかないまま亡くなった女性(看護師)の葬儀に参列した夫を含む16人(うち12人死亡)の感染が確認され、アラートが発せられた。実際には、診断が確定していない7例も存在するが、WHOのワクチン提供を含む迅速な対応で、これ以上拡大せず、6月には収束が宣言されている。
この12人から、ウイルスが単離され、大体8割ぐらいのカバー率でウイルスゲノムが解読され、これまでの流行と比較された。
前回の流行からすでに5年が経過しており、当然コウモリなどの動物により維持されたものが再流行したと最初は考えられたが、ウイルスゲノムを調べると、前回ギニアで流行したザイールウイルスと比べて、12カ所(エボラウイルスのサイズは大体1.9Kb)しか変異が見つからなかった。すなわち、動物体内で分裂を繰り返していた可能性はほとんど考えられず、ウイルスが増殖せずに長く人体に潜伏していた可能性を強く示唆する結果だった。
最初の感染源となった女性の履歴を調べると、5年前の流行では感染していないが、親族25人が感染していることが確認されている。一方、この女性が働いていた病院や地域の人にはエボラ感染が見られないことから、新たに感染した可能性は少ない。以上の結果、この女性の体内でウイルスが潜伏していた可能性が高いと結論している。
実際、男性の精巣や女性の乳腺で持続感染が起こることが知られており、潜伏しやすい組織もあるのではと著者らは考えているようだ。とすると、同じような潜伏ケースがもっと多くの人にも存在する可能性があり、以前の感染者のモニタリングを続けることの重要性を示している。
ウイルスは様々な細胞メカニズム依存的に増殖する。また、自然免疫から逃れる何重もの仕組みを持っている。とすると、ホストゲノムに挿入されなくとも、潜伏という状態が起こることは考えられる。今後のパンデミックに備える意味でも、人体での潜伏メカニズムの研究が進むことを期待する。