細菌は外部からのゲノム侵入から身を守るメカニズムとして、クリスパー免疫系を進化させたが、配列特異的に標的にタンパク質をリクルートする機能は共通だが、標的に対するアクションは極めて多様で、まだまだ配列特異的に細胞を操作するためのツールが開発できるのではと期待されている。
今日紹介するオランダ・デルフト大学からの論文はRNAを標的とするtype IIIクリスパーの中でも、メタゲノム解析から存在が示された新しいtype III-Eに注目して、コードされたタンパク質の機能を調べた研究で、9月17日号Scienceに掲載された。タイトルは「The gRAMP CRISPR-Cas effector is an RNA endonuclease complexed with a caspase-like peptidase(gRAMPクリスパー/Casの作用はカスパーゼ様ペプチダーゼがRNA分解酵素と結合している)」だ。
これまでのtype IIIクリスパーは、様々なCasユニットが独立して存在していたが、typeIII-Eでは、なんとクリスパーDNAを認識するCas1が逆転写酵素と結合しており、また標的破壊活性を持つタンパク質が、著者らがgRAMP と名づけた一つの長いペプチドにまとまって存在することがわかった。さらに、gRAMP下流にはカスパーゼ様の配列を持つTPR-CHAT分子をコードする遺伝子があり、逆転写酵素でクリスパーアレーのレパートリーを増やしながら、侵入RNAを壊し、さらにはペプチダーゼを用いて、タンパク質への働きかけが可能なクリスパーシステムが進化している可能性が考えられた。
この研究ではgRAMPを大腸菌で合成させ、精製した分子を用いて生化学的検討を行い、
- gRAMPはクリスパーアレーから転写されたRNAを処理してcrRNAへとプロセッシングする活性を持つ。
- crRNAと結合した相補的RNAを2カ所で切断するエンドヌクレアーゼ活性を持つ。
- 切断は標的の配列特異的で、DNAには活性がない。
を明らかにし、gRAMPが複数の機能が集まった一つの大きなタンパク質であることを明らかにする。
次に、下流にあるカスパーゼ様分子(TRP-CHAT)とgRAMPとの関係を、それぞれの分子を大腸菌に導入して調べ、
- crRNAと結合したgRAMPとTRP-CHATが大腸菌の中で、1:1の安定的な複合体を作っている。
- 標的と結合した後も、複合体は安定に維持される。
- 標的と結合しても、大腸菌の細胞死は誘導できない。
を明らかにしている。
結局、crRNAと標的結合により、本当にカスパーゼが活性化されたのかどうかはわからずじまいだが、これをスタートラインとして、タンパク質をも操作し、細胞死も誘導できるような新しい細胞操作システムが可能になるかもしれない。今後、クリスパーを遺伝子編集などと呼ぶのはやめた方がいいような気がする。