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9月13日 相分離した線虫P granuleの安定化(9月10日号 Science 掲載論文)

2021年9月13日
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これまで何度か相分離と生命現象に関する論文を紹介してきたが、オルガネラ形成メカニズムに相分離の関与が最も早く示されたのが、線虫の生殖細胞発生過程で生殖系細胞に偏在し、大きさや分布の動態が大きく変化するP granuleだろう。特に、受精後の最初の分裂で将来の生殖細胞系列だけに非対称的に分配されるダイナミックスは多くの研究者を引きつけてきたが、この動態に合わせて相分離がどう調節されているのかについては明らかではなかった。

今日紹介するジョンズホプキンス大学からの論文は、P granuleを形成する相分離したPGL分子の表面安定性をMeg3分子が維持することを示した面白い研究で9月10日号のScienceに掲載された。タイトルは「Regulation of biomolecular condensates by interfacial protein clusters(生物分子の凝集体を界面分子クラスターで調節する)」だ。

相分離は工業的に古くから利用されており、相分離した凝集体の界面でこれを安定化させる分子の利用はピッカリング因子として、1907年から知られていたらしい。わかりやすく言うと、カゼインにより乳脂のエマルジョンが安定化される現象もこれに当たる。

この研究ではP granuleの主成分と言えるPGLが相分離したとき、界面を安定化させる分子としてMeg3が働くのではと着想し、まず細胞内、および試験管内でのPGL 凝集体と、Meg3との関係を高解像度顕微鏡で調べると、Meg3がPGL凝集体の表面でクラスターを形成し、ピッカリング因子の働きをしている可能性を発見する。実際、Meg3がないと、凝集体が固くなり、また凝集体同士の融合が起こる。すなわち、Meg3はPGL凝集体をしなやかに保ち、凝集体同士の融合を抑える、ピッカリング因子としての役割を果たしていることを明らかにする。

この発見が研究のハイライトで、このような凝集体の調節により、凝集体自体と周りの環境との分子の交換は阻害されないまま、安定な相分離帯を形成できる。特に、PGLはリン酸化により融合が高まるが、Meg3によりこの融合を強く抑えることができる。これにより受精後PGLがリン酸化されることで凝集したがる傾向を、Meg3が押さえ、P granuleを次の段階で、片方の細胞だけに分布させられるように、至適条件を保っている。

実際、Meg3が存在しないと、最初の分裂前から大きなPgranuleができてしまい、その結果P granuleが片方の娘細胞にだけ分布して生殖細胞を決定することができない。

結果は以上で、まとめるとMeg3というピッカリング因子が存在することで、凝集体のサイズや固さを安定化させ、PGL自体の分子変化がおこっても、凝集体が維持できることが、P granuleの非対称的分布に必須であることを示し、相分離の研究が、その微細な調節機構解明へと進んでいることを示す面白い論文だと思う。

しかし、このような界面化学が工業的に利用されていることを知ると、進化の中で同じ制御過程が生まれていることに感心する。

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