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4月10日 アデノウイルス生成過程に必要な相分離(4月5日 Nature オンライン掲載論文)

2023年4月10日
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アデノウイルスでは、ゲノムの複製と、ゲノムのウイルス粒子へのパッケージングは核で行われる。ウイルス構成タンパク質は当然細胞質で合成されるので、これらの分子は核内へ移行して、感染初期にはウイルスの複製を支持し、後期には複製されたウイルスゲノムをウイルス粒子に包むパッケージングが行われる。当然、ウイルス粒子構成成分を核内で濃縮するために、相分離が利用されると想定されるが、これまで研究はあまり行われていなかった。

今日紹介するペンシルバニア大学からの論文は、構造学的特徴からウイルスのパッケージングに関わる52Kタンパク質が相分離のオーガナイザーとして働いている可能性を探求し、この分子が核内で相分離を起こし、そこに他のウイルスカプシドタンパク質を引き込んで、最終的なウイルス生成に備えることを明らかにした研究で、4月5日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「A viral biomolecular condensate coordinates assembly of progeny particles(ウイルスの生物分子相分離によりウイルス粒子の集合が調節される)」だ。

アデノウイルスに感染した細胞の核内でのウイルスタンパク質の局在を調べると、ゲノム複製に関わる大きな構造とともに、相分離を強く示唆する小さな球状構造が認められる。そして、この構造の中にウイルス粒子形成に関わるタンパク質が相分離して存在していることがわかった。

構造的に相分離が可能なのは52Kと呼ばれるタンパク質で、相分離をリードすると考えられる。事実、試験管内で52Kタンパク質は単独で相分離した液滴を形成する。また、他のカプシドタンパク質も、52Kが存在すると相分離体の中に取り込まれる。そして、52K遺伝子を欠損させたアデノウイルスを感染させると、感染後期に現れるカプシドタンパク質が入った相分離体だけが形成されなくなる。

以上、52Kタンパク質が総分離してカプシド形成に必要なタンパク質が濃縮された領域を核内に形成することがわかったが、これら分子ウイルスゲノムを取り込んで、成熟したウイルス粒子へと発展する必要がある。この過程で、52Kタンパク質を含む相分離体がどう変化するか、継時的に調べると、ウイルスゲノムがパッケージされる過程で相分離体は小さくなり、52Kタンパク質も相分離体を離れて核の周辺へと移行する。すなわち、ゲノムをパッケージする必要が生まれると、相分離体からウイルス粒子形成に必要なセットがゲノムに向けて移行し、そこでパッケージングが行われると考えられる。事実、ゲノム複製を阻害すると、相分離体は逆に大きくなる。

52Kタンパク質の相分離にはN末部分の相分離に必要なintrinsically disorderd region(IDR)と呼ばれる特徴的部分が存在するが、この領域の詳しい機能解析を行い、これまで見てきた相分離形成、また相分離からの脱出過程のそれぞれに必要な部分がIDRに備わっており、最初IDRが絡まり合って相分離が始まり、また他のタンパク質も相分離体へ引き込まれるが、その後IDRのプロリンの多い領域を介してカプシドタンパク質が集合し始めると、これをきっかけに相分離体から排除され、ゲノムの存在する部位へと移行し、ウイルスが形成されることを示している。

具体的な実験についてはかなり省いて紹介したが、IDRはカプシドタンパク質を相分離により集めて効率よく組み立てを開始する部品工場のようなもので、部品ができてくると、自然にそこを離れて完全なアッセンブリーを行う工場へと移行する過程に、52Kタンパク質のIDRが重要な役割を演じているという結論だ。

我々の細胞は言うに及ばず、バクテリアからウイルスまで、もう相分離なしに生命機能は維持できない。

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