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4月25日 小児の脳機能と脂質(4月号 Nature Medicine 掲載論文)

2023年4月25日
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オメガ脂肪酸とかDHAといった必須脂肪酸は、一般の人にも知名度が高い。勿論、リノール酸から合成されるオメガ6はアラキドン酸、オメガ3はEPAを経てプロスタグランジンなど炎症調節の主役分子の材料として極めて重要だが、有名になった最大の理由は、脳の働きをよくするという様々なコマーシャルのおかげではないかと思う。

事実、脂質異常を伴う自閉症スペクトラム(ASD)が存在するし、またASDの方では動脈硬化などの発症率が高い。ただ、極めて希な遺伝異常を除くと、脂肪代謝の変化と脳機能を結びつけるのは簡単ではない。

今日紹介するオーストラリア、クイーンズランド大学を中心とする多施設からの論文は、主にASDの児童について行われている徹底的なコホート研究で得られた血清中の網羅的脂質分析結果を、症状やゲノム解析と相関させ、ASDで脂質代謝異常が起こっている可能性と原因を探った研究で、4月号の Nature Medicine に掲載された。タイトルは「Interactions between the lipidome and genetic and environmental factors in autism(自閉症での網羅的脂質解析データと遺伝的、環境的要因の相互作用)」

現在、様々なところで、ゲノム、エピゲノム、遺伝子発現に加えて、蛋白質や脂肪の網羅的解析が行われ、膨大なデータの中に見られる相関から、病気を理解する研究が進んでいる。この研究ではオーストラリアで進むASDのコホート研究を材料に、脂質データの解析方法を探ったのがこの研究だ。

我々も受けるような検査では、ASD児はコレステロールが低い傾向がみられるがオメガ6など限られている。一方で、睡眠障害で相関をとると、DHAが上がってくる。一方、知能ではDHAのようなオメガ3ではなく、オメガ6脂肪酸との相関がはっきりしている。

ただ、血中の脂質は、遺伝、食事、環境、薬剤、年齢、性別など様々な要因で変化する。この研究では統計学の苦手な私には理解出来ないレベルの様々な情報処理方法で、この相関の実際の原因について探っている。

あらゆるデータを省略してこのグループの結論だけ述べると、

  1. 生活習慣などの要因は大きいものの、ASD、知能、睡眠障害の遺伝的相関と関連して現れる脂質異常は確かに存在する。
  2. しかしASDでDHAなどが低下するのは、ASDによる生活習慣の変化が先で、その結果、肉の消費が減少したりする二次的な可能性が高い。
  3. 一方、睡眠障害や知能障害は、神経機能とは無関係の食生活の乱れに起因して、この結果DHA等が減少するだけでなく、さらに腸内細菌叢にもこの乱れが働いて、血中脂質異常が起こっている可能性が高い。
  4. ただ、脂質異常の影響が有意なのは睡眠障害だけで、DHAが低下すると睡眠障害が起こっていると推計学的に結論できる。
  5. 以上のことから、児童の睡眠障害にリノレイン酸やDHAを摂取させる治療は有効性が期待できる。

血中脂質はあまりに複雑な要因で形成されるため、一筋縄ではいかないという結果だが、それでもこの藪をかき分けて進む情報処理方法が進んでいることに感心した。

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