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4月29日 慢性腎臓病研究の最近の進歩(3月9日 NatureCollection 掲載記事)

2023年4月29日
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Nature Collectionというサイトがあり、特集として選んだ様々なテーマについてエディターやライターの記事が集められている。いつも目を通しているわけではないのだが、たまたまウェッブサイトを見ていたら、3月のNature Collectionとして慢性腎臓病(CKD)が特集されており、掲載された10編の総説の中に、最近注目すべきCKD研究がまとめてあったので紹介することにした。タイトルは「Chronic Kidney Disease:Highlights from research(慢性腎臓病:研究のハイライト)」で、サイエンスライターのMichael Eisensteinが担当してまとめている。

ただ、この記事に行く前にAmanda Keenerにより書かれた「The surprise blockbuster(ブロックバスターの驚き)」について少しだけ紹介しておこう。この記事では最近糖尿病治療として広く使われるようになったSglut2阻害剤が、糖尿病だけでなく、CKDの腎臓を守る働きがあることが明らかになり、様々な腎疾患や他の病気への使用が拡大しつつあることがレポートされている。Sglut2は腎臓尿細管でグルコースとナトリウムの再吸収を抑えるのだが、このHPで紹介したように、他の分子標的にも効果を持つことが示されており、一種魔法の薬としてさまざまな問題に利用できることがわかってきた。この結果、スタチンや、血圧硬化剤に次ぐ製薬業界のブロックバスターの地位を確立する勢いで、今後も注目して紹介していきたい。

さて、Eisensteinの記事では、5編の論文が紹介されており、それぞれについて紹介する。

1)Nature Med. 28, 1412–1420 (2022).  コロンビア大学からの論文で、大規模コホートからCKDと相関が見られるゲノム多型を合わせたリスク指標を開発し、これによりCKDリスクのオッズ比が4-8というハイリスクグループを選別できることを明らかにしている。すでに述べたようなCKD治療の進展を考えると、リスクを把握することの意義は大きい。

2)Sci. Transl. Med. 14, eabj4772 (2022).:わが国の西中村さんなど、ヒトiPSから腎臓組織を形成する方法が確立してきたが、このハーバード大学からの論文では、同じように調整した腎臓のオルガノイドをシスプラチンで処理してCKDを誘導し、障害に対応する修復機構をオルガノイドで研究できること、またこの系を利用するとこの修復機構を促進する薬剤の発見に成功している。

3)Nature Immunol. 23, 947–959 (2022):ペンシルバニア大学からの論文で、尿管を閉塞させて誘導される腎臓の繊維化機構についてsingle cell RNA sequencingで解析し、尿細管から分泌されるケモカインにより好塩基球が浸潤することが繊維化に大きく寄与していることを明らかにしている。このメカニズムに基づき、好塩基球を除去する処理を行うと、繊維化を防ぐことができることから、臨床研究が待たれる。

4)Sci. Transl. Med. 14, eabj2681 (2022):バージニア大学からの論文で、CKDの炎症にSphingosin-1-phosphate(S1P)が深く関わることと、そのメカニズムを明らかにし、S1P分泌に関わる分子Spnsを特定している。そしてスクリーニングにより得られたSpns阻害化合物が腎臓の炎症を抑制できることを示している。このプロセスはかなり腎臓特異的なので、新しい治療法の開発に直結する。

5)N. Engl. J. Med. 385, 2507–2519 (2021).:インディアナ大学からの論文で、CKDの患者さんは高血圧を併発することが多いので、サイアザイド系の利尿剤クロルタリドンを進行したCKDに投与する無作為化臨床治験を行い、コントロールが難しかった高血圧を抑えることができたという論文だ。これについては、こんなことが行われていなかったのかという印象が強いが、ステージごとにまだまだ最適の標準治療を開発できる可能性があることがよくわかる。

以上が結果で、CKDを透析や腎移植を必要としないステージでコントロールする医療は今後急速に発展することが期待できる。

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