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4月22日 温暖化はホームランを増やす(4月7日号 米国気象学会雑誌掲載論文)

2023年4月22日
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ダウンロードした論文の一部しか紹介しきれないので、紹介せずにファイルに残っている論文のサマリーを眺めながら整理するのだが、たまに整理し残した論文で面白いと思って、紹介することがある。今日紹介した古代人ゲノムから人類と感染症との戦いを調べた論文も、昨日整理していたときに目にとまった。

面白いので紹介したところ、読者の方から同じ論文は既に1月17日に紹介していると指摘を受けた(https://aasj.jp/date/2023/01/17)。確認した後、耄碌したと愕然としたが、仕方がない。ただ、毎日新しい論文を紹介するという日課が果たせないことになるので、少し小ネタになるが最近Scienceのメルマガに載っていた、温暖化によって大リーグのホームランが増えたという気象学会誌の論文を改めて紹介する。タイトルは「Global warming, home runs, and the future of America’s pastime(地球温暖化、ホームラン、そして将来の米国娯楽)」だ。

気象学の専門家の視点だと思うが、1980年から一時期を除いて大リーグのホームラン数が上昇しているという話を聞いて、これは地球温暖化で大気密度が低下したせいでないかと考えたことが、この研究の全てだ。事実、ホームラン数と球場の温度、さらには球場の大気密度は完全に相関している。

それでも他の要因が考えられるので、温度の影響を受けないドーム球場を調べてみると、ホームラン数の増加は認められない。さらに、この傾向はナイターより、デイゲームで強く見られることから、地球温暖化を反映している可能性は高い。

最後に、温暖化にこだわらず、それぞれの試合での温度と、ホームランの数を調べると、温度が高いほどやはりホームラン数が多くなる。大体、1度温度が上昇すると、1.83%のホームラン数上昇が観察できる。

一方で、打者やピッチャーのデータを詳しくビデオに残している球場で見ると、個人の技量が大きく変わったという傾向はなく、やはり大気密度の性だと考えて良い。

以上から将来を予測すると、おそらく私がこの世に存在しない、2050年には全ホームラン数は192本増え、2100年にはなんと467本も増えることになる。

とすると、ベースボールを楽しむために、温暖化を止めるか、あるいはボールやバットをか変えるしかメジャーリグも困るのではと結論している。

カテゴリ:論文ウォッチ

4月22日 感染と戦ってきた人類先史を探る(2月8日号 Cell Genomics 掲載論文)

2023年4月22日
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今日は、2月に発表されたが見落としていたパストゥール研究所から Cell Genomics に掲載された論文を紹介する。タイトルは「Genetic adaptation to pathogens and increased risk of inflammatory disorders in post-Neolithic Europe(新石器時代以降の病原体や炎症リスクの増大に対する遺伝的適応)」だ。

脳を発達させて様々な環境に適応してきた人類に対して最も大きな選択要因になったのが感染症と言える。昨年10月、ペスト大流行前後で埋葬された人骨のゲノムからペストという選択圧によりゲノムに残された変化を調べ、間違いなく細菌感染抵抗性のSNPが上昇していることを示した論文を紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/20803)、人間のゲノムにはこのような感染症との戦いの歴史が残されていることは間違いがない。

ただ、ペストのように歴史として記録が残っているイベントは、選択を容易に調べることが出来るが、歴史記録が残っていない時代の感染症に対する人間の戦いの後を調べることが出来るのか?

まさにこの課題にチャレンジしたのが今日紹介する論文で、発表されて2ヶ月以上たっているが紹介することにした。

この論文は新石器時代以降、ヨーロッパ先史時代の2400近いゲノムデータを集め、500の現代人ゲノムと比較している。ヒトゲノム解読が終わった後、1000人ゲノムプロジェクトがスタートしたが、まさに10年一昔で、今や先史時代の2500近いゲノムを調べられることに感動する。

さすがにこのレベルの数のゲノムがあると統計学的な検討が可能になり、まずこの1万年で明らかにpositive selectionが起こったと思われる多型をリストアップすると、選択度の強かったトップ102遺伝子は、抗原提示を含む免疫機能に関わっていることがわかる。面白いのはコロナ感染の時に問題になったABOに関わるSNPで500年以降その割合が1. 8倍近くになっている。

では、いつからこのような変化が起こったのかを様々な遺伝子で見ると、ほとんどが新石器時代以降、5000年ぐらい前から始まっていることがわかる。おそらく、人口が増え、人の移動が増えた結果ではないかと思う。

蛋白質自体が変化するSNPも存在するが、ほとんどは遺伝子発現に関わる多型の変化で、同じくネアンデルタール人由来でコロナウイルス抵抗性に関わるとして問題になった、ウイルス増殖抑制分子 OAS1の発現を高めるSNPも、5000年前から急速に割合が増えている。

さらに、これまでのゲノム研究で血液細胞数を調節するとして知られるSNPを集めて計算するリスクスコアを使うと、この5000年で我々のリンパ球や白血球が上昇している一方、血小板や好酸球は減る傾向にあることなどもわかる。

感染症で見ると、良い方向に進んでいるように見えるが、この結果炎症性腸疾患など自然炎症に関わる多型は着実に上昇している。

では、ゲノムに残った変化から、先史の人類が遭遇したイベントを推定できるか?結核免疫に関わる遺伝子の変化をリストすることが出来るが、そのほとんどは2000年以降のイベントで、まさに人口増加と移動の増加とともに、選択されているのがわかる。

それぞれの遺伝子の機能まで調べているが割愛する。このように、古代ゲノムを様々な目で見るこで、われわれは人間の文明自体の人類ゲノムへのインパクトを理解できるようになる。おそらく現在我々が経験しているパンデミックは、飛行機という文明がもたらしたパンデミックとして、いつか研究されるのだろう。

カテゴリ:論文ウォッチ
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