Covid-19感染により誘導される間質性肺炎が重症化する大きなリスクとして、糖尿病や肥満が指摘されてきたが、そもそも代謝と炎症は裏腹の関係にある。例えば、ブドウ糖を分解してATPを産生しながらピルビン酸に至るグリコリシス経路は酸素を必要としないが、作られたピルビン酸が酸素が少ない条件でTCAサイクルを回してしまうと、マクロファージを活性化して炎症を誘導することが知られている。
今日紹介するバージジア大学からの論文は、ピルビン酸がミトコンドリア内のTCAサイクルに供給されなくすることで、ミトコンドリアの好気的サイクルを正常化し、炎症を抑えることから、将来Covid-19など間質性感染を誘導するウイルス感染に利用できることを示した研究で、4月14日号 Science Immunology に掲載された。タイトルは「Inhibition of the mitochondrial pyruvate carrier simultaneously mitigates hyperinflammation and hyperglycemia in COVID-19(ピルビン酸をミトコンドリアへと運ぶ分子を阻害することで強い炎症と高血糖による異常を軽減できる)」だ。
この研究では、感染など低酸素でミトコンドリア機能が低下しTCAサイクルが一方向に回りにくい時に、高血糖のために増加したピルビン酸がミトコンドリア内に供給されると炎症を悪化させると考え、ピルビン酸をミトコンドリア内に輸送するMPC2分子を白血球からノックアウトしたマウスでCovid-19感染実験を行っている。
結果は期待通りで、Covid-19でも、インフルエンザでも炎症性サイトカインが抑えられ、感染による死亡率を抑えることが出来る。また、同じ分子を阻害する薬剤でも感染による死亡率を抑えることが出来る。
MPC2阻害剤の場合、白血球だけに聞いているわけではないので、感染と薬剤投与後の肺細胞をsingle cell RNA sequencingで調べると、肺のマクロファージが最も強く影響され、様々な炎症性サイトカインの分泌が低下することが明らかになった。これは、マクロファージが代謝異常の影響で変化しており、MPC2阻害剤はこれを正常化していると考えられる。
次に、MPC2阻害剤が炎症を抑えるメカニズムを調べると、TCAサイクルが正常化することで、低酸素反応に関わるHIF1αレベルが正常化することで、炎症性サイトカインの転写が低下することを明らかにする。すなわち、代謝と炎症をつなぐTCAサイクル自体を正常化することで、感染による炎症及び代謝異常による重症化をMPC2で抑える可能性がある。
そこで、高脂肪食で肥満誘導したマウスの感染実験で、間質性肺炎及びそれによる死亡率を抑えることを明らかにする。さらに、高脂肪食による肥満マウスは、インシュリン抵抗性が発生して、高血糖、高コレステロールになっているが、この薬剤で全身のインシュリン感受性を高めることも可能になっていることも示している。
ただ、この薬剤だけでは死亡率の低下の程度は強くないので、最後に抗ウイルス薬との併用実験を行い、抗ウイルス薬の効果をさらに高めることも示している。
以上が結果で、現在炎症の重症化は副腎皮質ホルモンで防ぐことが多いと思うが、この薬剤も視野に入れて使用法を考えるのは良さそうだ。元々この薬剤は、ピオグリタゾンに代わる第二世代のインシュリン抵抗性を防ぐ薬剤として治験などが進んでいるようで、その意味でも期待できる。しかし、代謝と炎症の関係をしっかり復習させてくれる面白い論文だった。