2016年8月、ガラパゴスのグンカンドリにGPSと脳の活動を拾うため、両半球に脳波測定器を装着して、 飛行中に両方の脳半球が完全な睡眠状態に入るかを調べた研究を紹介したことがある(https://aasj.jp/news/watch/5615)。事実、寝るために高い高度に飛び上がった後、上昇気流をつかむと完全に寝るようだ。すなわち、寝るための行動がしっかりパターン化している。
今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文は、まさにこの逆で、長期間休むところのない大海で狩りをするゾウアザラシは、潜水の最後に徐波睡眠に入り、REM睡眠でバランスを失った後覚醒を始めて浮き上がることを示した研究で、4月21日号の Science に掲載された。タイトルは「Brain activity of diving seals reveals short sleep cycles at depth(潜水中のゾウアザラシの脳活動は深海での短い睡眠サイクルであることを明らかにした)」だ。
グンカンドリと比べるとゾウアザラシは大きいので、装置は大きくていいが、しかし長期間海水や水圧に耐える必要がある。実際、頭全体を覆う脳波計と、紡錘のロガー、発信装置という大がかりな仕掛けをゾウアザラシに装着し、長期間の記録に成功している。
ゾウアザラシは陸で休んでいるときはほとんど寝ている。しかし、海に入るとほとんど睡眠時間が減っていき、一回30分ほどの潜水時に眠ることになる。この潜水時の睡眠は同じようなパターンをたどるが、300m近く潜る30分程度の潜水では、200m潜ったぐらいから浅い徐波睡眠。続く深い所徐波睡眠の後に、REM睡眠が現れる。面白いことに、徐波睡眠中は泳ぐ姿勢を保っているのだが、深い徐波睡眠が途切れる頃から、急に仰向きに反転し背泳ぎのような姿勢になった後、REM睡眠で身体の筋肉が動き始めるとらせん状にグルグル回転しながら落ちていく。そしてREM睡眠が終わると、覚醒して正常の泳ぐ姿勢を回復し、水面目指して急上昇するという一連の過程が明らかになった。
深く潜ったときは同じようなパターンをとることが多いが、岸近く潜水深度が浅い場合は、REM睡眠が現れないことが多い。
以上が結果で、
- 外洋に出たゾウアザラシはほとんど睡眠をとらないこと、
- 睡眠のほとんどは潜水中に短く済ませていること、
- 潜水の睡眠では徐波睡眠だけでなくREM睡眠も存在すること、
- 一方、陸上や棚のある海岸では、寝るときはもっぱら陸に上がったときであること
などを明らかにしている。
ライオンのように四六時中寝ているように見える動物がいる中で、睡眠がこんなに短くていいのだろうかと心配になるが、草食動物は体重が増えるほど睡眠時間が短いことが知られているようだ。従って、どんな状況でも、睡眠を少しでも確保するシステムが進化していることに感心すべきだろう。