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5月1日 肺線維症を細胞移植で誘導できる(4月26日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2023年5月1日
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原因不明の肺線維症は、今もなお原因はおろか治療する方法も見つかっていない。自ずと治療は対症療法になり、今の所、病気の進行を止めるところまでは至っていない。私も、3年前に医学部の同級生をこの病気で失ったが、毎日論文を読んでいても、適切なアドバイスができなかったことは辛い思い出だ。いずれにせよ、原因のわからない肺線維症(IPF)では、肺が障害を受けたと勘違いして、ブレーキなしの修復機構が働き続けるのではと考えられている。

今日紹介するヒューストン大学からの論文は、IPFの上皮細胞を移植することで、肺線維症をホストに誘導できることを示し、さらには線維化を誘導できる異常上皮細胞の培養に成功した研究で、4月26日号 Science Translational Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Cloning a profibrotic stem cell variant in idiopathic pulmonary fibrosis(突発性肺線維症の炎症誘導性の変異幹細胞のクローニング)」だ。

なんといってもこの研究のハイライトはIPF患者さんの肺組織から、試験管内で増殖する上皮細胞を樹立した点だ。通常、病気によりエピジェネティックな変異が起こっていても、培養すると正常と差がなくなることが多いのだが、今回樹立できたIPF肺上皮細胞は、免疫不全マウス皮膚に移植すると、移植局所に強い繊維化を誘導することがわかった。すなわちIPF誘導活性を保ったまま上皮を培養することに成功した。

次に、まださまざまな細胞が混在するこの培養から、この論文でCluster Bバリアンとと呼んでいる細胞を分離し、この集団が線維症を誘導できる責任細胞であることを特定するとともに、試験管内で肺の線維芽細胞と共培養することで、線維芽細胞の増殖、コラーゲン分泌を誘導することを示し、試験管内の肺線維症誘導モデル系を作るのに成功している。

次に、このIPFで変化したと考えられるCluster B バリアントに相当する細胞がIPF患者さんに存在するのか調べ、同じ性質を持つ細胞がIPF患者さん特異的にみられること、中でも肺下葉に濃縮していることを明らかにしている。

次に他の疾患とsingle cell RNA sequencingを用いた比較を行い、同じ線維化を伴う閉塞性肺疾患とはメカニズムが異なる一方、ブレオマイシンによる肺線維症ではほぼ同じ分子細胞的メカニズムが働いている事を示している。

この結果は、IPFもブレオマイシン肺線維症も、おそらく共通の要因でクラスターB細胞を刺激、リプログラムして、炎症誘導性を誘導していることを示唆している。従って、ブレオマイシン誘導モデルは、今後上皮のリプログラムを誘導する条件を調べるために有用であることを示している。

最後に、リプログラムされた上皮細胞の線維化誘導能を抑えることのできる薬剤を探索し、これまでブレオマイシンによる肺線維症を抑制できることが知られているEGF受容体阻害剤が高い効果を示すことを明らかにしている。

以上が結果で、ともかく肺線維症を誘導できる培養細胞を確立できた点が一番のハイライトで、肺線維症研究に新しい方向性を示した。もちろん治療にはまだまだかかると思うが、優れた研究システムが完成できたのではと期待している。

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