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5月17日 古典的しかし長期的疫学研究の重要性:トリクロルエチレンとパーキンソン病(5月15日 JAMA Network オンライン掲載論文)

2023年5月17日
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パーキンソン病にはパーキンなどミトコンドリア機能に関わる分子が重要な働きをしていることが、これらの分子に突然変異を持つ患者さんの研究からわかっている。とすると、ミトコンドリア活性に関わる様々な外的要因もパーキンソン病(PD)のリスク因子として当然考える必要がある。

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、トリクロルエチレンにより1975年から1985年、飲み水が汚染された基地に住んでいた退役軍人と汚染のない基地にすんでいた退役軍人を比較した長期的視野の疫学調査で、トリクロルエチレンがPDのリスク因子であることを明らかにした研究で、5月10日 JAMA Network にオンライン掲載された。タイトルは「Risk of Parkinson Disease Among Service Members at Marine Corps Base Camp Lejeune(海兵隊基地キャンプLejeuneの軍人に見られたパーキンソン病リスク)」だ。

私の現役の頃は、長期的なコホート疫学研究というと、国鉄中央病院がメッカだったが、おそらくこれに匹敵するのがアメリカの軍人だろう。完全にフォローアップがなされていることから、例えば多発性硬化症とEBウイルスの関係などは、軍人のフォローアップ研究なしには明らかにならなかった。

さて、海兵隊基地で1975年から10年間、飲み水のトリクロルエチレン量が基準値の70倍まで高まったことが発覚し、その時代に基地で過ごしていた軍人のコホート研究が続いているが、その人達のパーキンソン病リスクを調べたのがこの研究だ。

トリクロルエチレンは金属洗浄剤として現在も使われていると思うが、発ガン性とともに、ミトコンドリアの呼吸チェーンを抑制することが知られており、実験的にもPDを誘導することが知られている。

懸念したとおり、トリクロルエチレンにより汚染された飲み水をとっていた軍人のPD発症率は、コントロールの1.7倍に達しており、ほぼ8万人を対象にしたこの研究で、トリクロルエチレンがPDのリスクファクターであることが確認された。

さらに驚くのは、PDの潜伏期の症状と考えられる、震え、嗅覚障害、勃起障害、不安症状なども、10−20%ほど高いことで、PDと診断されなくても、黒質細胞の異常が始まっていることも明らかになった。

結果は以上で、トリクロルエチレンはPDリスクとして特定できるが、しかしこれを明らかにするのになんと40年もかかることも今回はっきりした。このように長期にわたる研究の結果わかることも多い。結局国民全体の正確な記録をどこまで達成できるかが、重要なことだと思う。おそらくPDなどでは、他にもリスク要因が見つかる気がする。

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