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5月26日 細胞を必要としない再生(5月24日 Nature オンライン掲載論文)

2023年5月26日
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再生医療というと細胞移植が必要と思ってしまうが、残っている組織の機能を再建する方法も重要だ。例えば脊髄損傷では、脳との結合が切断されてしまった脊髄硬膜外に多数の電極を設置し、これをコントロールして脚を動かすという治療法がスイス・ローザンヌで開発され、現在臨床治験が進んでいる(これまで三回にわたって紹介している。1. https://aasj.jp/news/watch/8993 ;2. https://aasj.jp/news/watch/9166 ;3. https://aasj.jp/news/navigator/14111)。ただ、これまでの研究では脊髄を刺激して脚を動かすことにフォーカスしており、脳との結合がない、すなわち自覚のない運動で終わっていた。ただ、同じグループは着々と研究を進め、今度はこの脊髄刺激系を脳と結合させるデバイスを開発して、完全に自覚された運動回復へ向け着実に研究を進めていることを5月24日 Nature にオンライン掲載した。初め紹介しようと思ったが、このような大きなトピックスは、様々なメディアで紹介されているので(例 https://www.tokyo-np.co.jp/article/252215)、「着実に研究が進んでいる」と言及するだけにする。

代わりに紹介したい論文は、同じNatureにオンライン掲載されたUniversity College Londonからの論文で、様々なシグナルのハブとなっているPI3Kα分子を特異的に活性化できる小分子化合物の開発研究で、タイトルは「A small-molecule PI3Kα activator for cardioprotection and neuroregeneration(心臓保護及び神経再生に利用できるPI3Kα活性小分子化合物)」だ。

PI3Kはインシュリン受容体をはじめ、様々なシグナルにより活性化されるハブ分子で、活性化されると細胞膜のフォスファチジルイノシトールをリン酸化(PIP2からPIP3へ)、この結果、下流のAKTを活性化し、細胞の代謝や増殖に必須の因子だ。多くのガンでこの分子の変異が認められており、これまでPI3K阻害剤については研究が進んでいたが、活性化する分子についてはPDGFRの細胞内ドメインに対応するリン酸化ペプチド以外は報告がない。

この研究はアストラゼネカ社との共同になっており、45万種類の化合物を、膜状に再現したPIP2のリン酸化を指標にスクリーニングし、1938と呼ぶ化合物が、PI3Kα特異的に活性化することを発見する。

構造学的に作用機序を調べ、様々な試行錯誤の結果(論文を読むとこの過程が最も難しかったように見える。例えば分子を結晶化しても1938が結合していないなど)PI3Kの2つの分子の結合を阻害する分子構造変化を誘導することでp110を活性化状態に誘導することを示している。このため、正常PI3Kαのみならず、ガン変異が起こった分子もさらに活性化することができる。

この分子を細胞に加えると、多くの分子がリン酸化などの変化を受け、細胞の代謝が上昇し、増殖が誘導できる。そこで、この化合物の特徴を生かすため、心筋梗塞の後、血流が再開した後に、活性酸素などの作用で起こる細胞障害からの保護と、神経損傷後の再生に使えないか、動物モデルで検討している。

結果は期待通りで、再還流後の心筋梗塞部位の進展が1938投与群では半分程度に抑えることがでる。また、坐骨神経を挫滅させた後の神経再生を、2倍以上回復させることができる。このように、細胞の保護だけでなく、細胞を活性化して再生を誘導することができることが示された。

以上、機械的機能再建や、化合物を用いた残存細胞の活性化など、着実に研究が進んでいることは、心強い。

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