頭にハンマーが突き出したシュモクザメは、このハンマーを使って深い海底で動きが鈍った獲物をヒットしたり抑えたりしてハンティングする。このため、わざわざ温度が低い海底までコンスタントにダイブする。温かい海域に住む赤シュモクザメでは、このダイビングは時により800mにもおよび、この時の海水温の差は20度にも達する。
今日紹介するハワイ大学からの論文は、赤シュモクザメが潜水時には息(エラ)を止めることで体温ロスを止めることを示した研究で、5月12日号 Science に掲載された。タイトルは「“Breath holding” as a thermoregulation strategy in the deep-diving scalloped hammerhead shark (赤シュモクザメの深海への潜水時息を止めることが温度調節のための戦略)」だ。
研究ではサメの位置、外部温度、潜水深度などを測るテレメーターとともに、運動を記録する装置と、さらに筋肉深くに挿入した深部温度計を装着し、サメの行動をモニターしている。
観察を続けると、赤シュモクザメは夜になると何回も500mをこす深海に繰り返しダイブし、おそらく餌の密度が多い場所では一晩に10回近くダイブしている。
この時の海温差は500mを越す場合、だいたい20度に達し、最低温度は26度から5度まで下がる。ところが、深部体温を見るとダイブ中はほとんど不変で、底で過ごす5分間もほとんど変わらない。しかし、浮き上がり始めて400mまで上がってくると、今度は運動が減り、浮き上がるまで体温は5度ぐらい低下してしまう事がわかった。
変温動物といっても、魚も筋肉を動かすと熱を発生できるので、当然それにより温度を保つ事ができる。事実、ダイビングを始めてから深さが400mを超すと運動が急速に上昇し、体温が生成されている事がわかる。また、浮き上がった時温度が下がるのも、急速運動が止まるのと一致しており、熱の発生が重要である事がわかる。
しかし、体温変化にかかわるパラメーターをモデルングして計算しても、筋肉運動による熱の発生だけでは20度の温度差を超えて、体温が維持されることは考えにくい。
そこで、最終的に出した結論は、サメも息を止める(すなわちエラへの海水流入を抑える)ことで、血管が冷えるのを防いで深部温度を維持しているという結論だ。この研究では、エラへの海流が遮断されることは確認できていないが、これまでのビデオ撮影で、海水の取り込み口が潜水時に閉まる事が確認されているようだ。
結果は以上で、サメもダイビング中は息を堪えているという、ある意味では楽しい結論だ。ただのそれだけ、と言われるかもしれないが、子供に物知り爺さんや、婆さんとして語るためには最高の話題のように思う。