昨日に続いて有用腸内細菌だが、人間の腸内ではなく、マラリアを媒介する蚊の腸内細菌の話だ。ジョンズホプキンス大学とスペイン・マドリッドにあるグラクソ・スミス・クライン(GSK)研究所からの論文で、タイトルは「Delftia tsuruhatensis TC1 symbiont suppresses malaria transmission by anopheline mosquitoes(Delftia tsuruhatensis TC1はハマダラカによるマラリアの感染を抑える)」だ。
マラリア原虫のライフサイクルは、人間に寄生している時と蚊に寄生している時とではステージが全く異なる。従って、人間の肝臓や赤血球中での原虫を標的にする治療だけでなく、蚊の腸管から体内までのステージも、マラリア撲滅という観点からは標的になり得る。
この研究ではGSK内で維持されていた蚊の中で、マラリア感染が起こりにくくなったグループが存在するのに気づき、腸内細菌がマラリアの発生を抑えているのではないかと着想し、D.tsuruhatensis TC1(TC1)を分離した。
この細菌はハマダラカの腸管に感染すると、マラリア原虫が腸内から体内に侵入する過程を抑制することを明らかにする。その結果、マラリア感染性が7割低下する。また、TC1株は、ボウフラ時期でも、成虫時期でも効率よく腸管に感染し、マラリアの雌雄が合体してオーキネートと呼ばれる二倍体に成長し、体内に入る過程を押さえることがわかった。
TC1株がマラリア原虫の発生を抑制するメカニズムを調べると、これまで様々な植物、あるいは焼けた肉などにも含まれていることが知られているハルマンと呼ばれるアミンが、オーキネート形成をつよく抑えることを明らかにしている。すなわち生きたTC1株が存在しなくても、ハルマンを食べさせたり、あるいは散布しても、オーキネート形成を抑えることを明らかにしている。
以上のことから、ハルマンを殺虫剤の様に噴霧する可能性もあるが、安定的にマラリアの発達を抑えるためには、TC1株を感染させる方が良いと考え、まずコンピューターシミュレーションで可能性を探った後、蚊の好む味とともにTC1株を接種させる、あるいはボウフラのいる水にTC1株を加えて感染させる方法を用いることで、実験に選んだブルギナファソの実験フィールドで、野生の蚊のほとんどにTC1株を感染させられること、そしてそれにより腸内のマラリア原虫のオーキネート形成を抑えられることを明らかにしている。
残念ながら、一度感染させても、子供も含め他の個体へと伝搬できないため、蚊の生育場所に常に細菌を散布する必要があるが、自然の細菌であること、感染高率が高いことなどから、時間をかければマラリア感染の蚊を減らせるのではと期待している。現在野外実験を進めているそうなので、次の結果が待たれる。