1型インターフェロンには全部で5種類存在する様だが、α、β以外の研究をほとんど読んだことがなかった。1型インターフェロンはガンを含む外来因子に対する第一線の防御機構なので、当然多様化していてもよい。
今日紹介するインターフェロンε (IFNε)についてのオーストラリア・ハドソン医学研究所からの論文は、1型インターフェロンが特殊任務に合わせて多様化していることを改めて認識させてくれた研究で、8月16日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Interferon-ε is a tumour suppressor and restricts ovarian cancer(インターフェロンεはガン抑制因子として卵巣ガンを抑制する)」だ。
この論文を読んで初めて知ったが、IFNε は他の1型 IFN と同じ受容体を使っているにもかかわらず、IFNα、βが悪化させる生殖器のクラミジア感染を抑制する作用があり、生殖器官特異的機能が注目されていた。
この研究ではまず IFNε の発現を調べ、卵巣と子宮をつなぐファロピアン管の上皮特異的に発現していること、そしてその上皮に由来する悪性の高異型度漿液性ガン(HGSC)では全く発現が見られないことを発見する。
この結果から IFNε が HGSC 抑制に関わるのではと着想して、ノックアウトマウスに HGSC を移植すると、ガンの腹膜転移が急速に拡がる。そこで、HGSC を移植したマウスに IFNε あるいは FGNβ を投与する実験を行い、IFNβ に比べて IFNε が遙かに強いガン抑制効果を持つことを発見する。
興味深いのは、IFNε 治療によって腹膜に散種した腫瘍増殖は強く抑制されるのに、卵管に移植した元のガンへの抑制効果が少ないことで、この結果は免疫が誘導されにくいとされてきた HGSC に対する免疫が腹腔では誘導できていることを示唆している。
このメカニズムを調べるため、ガンを移植する側のマウスから IFNε の受容体をノックアウトして移植実験を行うと、IFNε の効果が大きく低下するので、ホストの免疫機構を介する可能性が強く示唆される。
さらに、HGSC細胞株から IFNε受容体をノックアウトして移植すると、ノックアウトされていないガン細胞と同じように増殖が抑制できることから、IFNε の作用はガン細胞への直接効果よりも、ホストの腹腔内での免疫機構を活性化させる効果によることが示された。
結果は以上で、何よりも腹膜播種と呼ばれる HGSC をコントロールする方法が示されたことは大きい。メカニズムから考えると、おそらく他のガンでも腹膜播種が起こった場合はI FNε の効果が見られるのではと期待できる。
臨床的にも重要な研究だが、インターフェロンの進化を考える意味でも面白い分子で、勉強になった。