8月16日 気になった臨床研究3編(8月10日 Nature Medicine オンライン掲載論文他)
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8月16日 気になった臨床研究3編(8月10日 Nature Medicine オンライン掲載論文他)

2023年8月16日
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臨床研究で気になった論文3編をまとめて紹介する。

最初はイタリアトリノ大学からの論文で、通常の治療に反応しないループス腎炎に対する抗CD38抗体治療の第1相治験だ。

ループス腎炎はSLEに合併する腎炎で、かっては副腎皮質ホルモンしか治療法がなく、難しい病気だったが、現在では様々な免疫抑制剤が利用できる様になっている。それでも、一部は治療に応答しないケースもあり、現在様々なモノクローナル抗体の効果が調べられている。

この研究が用いるCD38抗体は、現在多発性骨髄腫の治療に用いられている抗体薬で、形質細胞で発現が高いが、実際にはT細胞も含め多くの免疫細胞で発現が見られる。この研究では治療応答性の悪いループス腎炎患者さん6人に、CD38抗体のみの治療を行って経過を見ている。

コントロールのない観察研究だが、1例を除いて残り全員で抗DNA抗体、蛋白尿、クレアチニン、インターフェロンγ が低下し、一方免疫を抑える IL-10 の濃度が上昇することを観察している。第一相のプライマリーアウトカムである副作用はほぼないという結論だ。

単純に骨髄腫の治療と同じメカニズムで働いているのか、あるいは他の免疫抑制機構が働いているのかさらに調べる必要があるが、期待を上回る結果で、第2、第3相の治験を待つことになる。

次もNature Medicineにオンライン掲載された、脳卒中後1-3年経過したリハビリ中の患者さんの小脳歯状核に深部電極を設置し、手の機能回復に対する効果を調べたクリーブランドクリニックからの論文だ。

これまで、迷走神経刺激や皮質刺激で、卒中後のリハビリを促進する試みが行われてきたが、結果はまちまちだ。この研究では、それまでのマウスやサルを用いた動物実験に基づき、小脳、視床、大脳運動野などと神経結合し、運動の調節に関わる歯状核に深部電極を設置した点が新しい。

電極を設置してから3ヶ月はリハビリのみで経過を見ており、4ヶ月目から電気刺激を取り入れている。すると、リハビリだけではゆっくりしていた回復が、電気刺激により大きく促進され、刺激やリハビリを中止しても機能が保全されることがわかった。

さらに機能回復に応じて、脳のPET検査による代謝改善も見られることから、脳細胞自体の活性も高まっていると考えられる。

この治療は卒中後1年の患者さんも、3年目の患者さんも回復度に差がないので広く適用できると期待されるが、遠位の運動機能、すなわち手や指の機能がある程度残っていないと、効果はあまりないのが残念だ。専門家でないので、実際の快復度についてイメージがわかないが、リハビリ効果をためられるなら期待したい。今後の第3相試験を期待したいが、この場合コントロールがどのように設定されるのだろう。

最後はハーバード大学が8月8日米国医学雑誌に掲載した論文で、閉経後の女性を20年以上追跡するコホートで、砂糖入り飲料と肝臓ガンの関係を調べた調査研究だ。

Brigham and Women’s Hospital を中心に組織化された10万人規模の閉経後の女性追跡コホートで、3年目に聞き取り調査を行い、調査日前3ヶ月での砂糖入り飲料、あるいは人工甘味料飲料の消費量で層別化し、それぞれのグループの肝臓ガン、及び肝硬変による死亡率を調べている。

結果は明瞭で、毎日1本以上(200ml−500ml飲料)飲み続けていた女性では、20年目の肝臓ガンや肝硬変死亡数は2倍に達し、補正後のオッズ比で1.9に達している。

それ以外の一週間に1-6本というグループではほとんど飲まない人と差がないので、もう少し詳しい層別化も必要かと思うが、砂糖入り飲料の問題を浮き彫りにしている。

一方、この調査で人工甘味料入り飲料では全く飲まない人と差がないので、様々な問題は指摘されていても、人工甘味料入り飲料は肝臓疾患という点では許容できるという結論だ。

当たり前と言えば当たり前だが、肝臓ガンの発生率を調べた研究はほとんどないので、その意味では重要だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ