昨日に続いて、ノンコーディングRNAが関わる論文を紹介する。フランクフルト大学からの論文で、なんと歳をとると心臓と神経系の連結が低下することを示し、それにマイクロRNAと呼ばれる翻訳制御に関わるRNAが関与することを示した研究だ。タイトルは「Aging impairs the neurovascular interface in the heart(老化は心臓の神経血管接点に大きく影響する)」で、8月27日号 Science に掲載された。
心臓には交感神経、副交感神経、そして感覚神経が投射しおり、痛みを感じたり、胸をときめかせたりしている。確かに歳を重ねると、胸のときめきはなくなっては来るが、心臓に分布する神経数が低下するとは思っても見なかった。しかし、副交感神経、交感神経ともに、活動が低下すると不整脈になることが知られていることから、神経支配の低下はときめかないでは済まない深刻な影響があるらしい。
この研究ではまず、老化マウスでは心臓に分布する神経数が左心室特異的に大きく低下していることを発見している。右心室では若者と比べて差はない。同じ心室でこれほどの差があるとは予想外の発見だ。しかも、三種類すべての神経で数が低下している。
この原因を遺伝子発現と組織学を組み合わせて追求し、老化マウスでは神経との接合を排除する semaphorin3(sema3) の血管内皮での発現が上昇していることを発見する。神経数の減少に sema3 が関わっていることを確認するため、内皮で sema3 を過剰発現させると、神経数は減少するし、逆にノックアウトすると心臓へ分布する神経数が上昇することも確認している。
ではなぜ老化により心室血管の sema3 が上昇するのか?このメカニズムを追求し、sema3 の遺伝子翻訳を低下させるマイクロRNA、miR143/145 の発現が老化により低下し、sema3 のタンパク質量が上昇してしまうこと、そして miR143/145 を低下させているのが、血管内皮の細胞老化であることを発見している。
残念ながらなぜ細胞老化により miR143/145 が低下するのか、また老化はあらゆる血管内皮で起こっていいのに、どうして心室血管特異的なのかといった問題については議論できていない。代わりに、以前紹介したことがある dasanitiv(広いスペクトラムのリン酸化阻害剤)と抗酸化のためのケルセチンを投与して老化した細胞を積極的に除去する処理を18ヶ月齢から始めると、miR143/145 の低下が抑えられ、結果神経分布の減少を抑えられること、そしてその結果、神経密度減少により誘発されると考えられる心臓の交感神経、副交感神経のバランスが正常化して不整脈の危険性が抑えられることを示している。
結果は以上で、なぜ左心室だけでこのメカニズムが働くのかについての説明がなくフラストレーションが残るが、しかし神経密度が半数になるというのは驚きの話だった。