抗原と結合する部位だけでなく、抗体の Fc 部分は様々な機能を持っている。補体を活性化して細胞を溶かすのもこの部分の機能だし、また何よりも抗体が他のタンパク質と比べて血中に存在できる期間が長いのも全て Fc 部分のおかげだ。ただ一方で、Fc 部分を認識する受容体の中にはリンパ球の機能を抑制する FcγRIIB 分子もあり、これがガン免疫を担う細胞で発現すると、抗体によるガン治療を抑制する可能性が指摘されてきた。ただ、ガンを攻撃するキラー細胞が FcγRIIB を発現するかどうかは議論が続いており、また PD-1 治療も問題なく行えているので、臨床的にはあまり問題ないと考えられてきた。
今日紹介する米国・エモリー大学からの論文は、人間の CD8キラー細胞の一部には FcγRIIB が発現しており、ガン免疫効果を低下させていることを示した研究で、8月23日号 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「FcγRIIB expressed on CD8 + T cells limits responsiveness to PD-1 checkpoint inhibition in cancer(CD8陽性T細胞が発現している FcγRIIB は PD-1 チェックポイント阻害ガン治療を抑制する)」だ。
この研究ではまず、FcγRIIBが割合は少ないが確かに末梢血の CD8 陽性細胞に発現していることを確認した後、ガン局所で様々な炎症性サイトカインを分泌する主要な細胞であることを明らかにしている。キラー活性で見ると、FcγRIIB 陽性も、陰性も同じような能力があるが、そこに強い炎症を誘導できるのは FcγRIIB 陽性細胞であること言う結論だ。もし炎症誘導がガン抑制に重要だとすると、治療抗体の Fc 部分により FcγRIIB が刺激され、ガン抑制効果が低下する可能性がある。
この可能性について、今度はマウスに移植したガンに対するチェックポイント治療実験を行い、FcγRIIB ノックアウトマウスではチェックポイント効果が高いこと、さらに PD-1 抗体を投与するときに、FcγRIIB の機能を阻害する抗体を投与すると、チェックポイント抗体の効果が高まることを明らかにしている。
実際には、ガンの種類を変えたり、FcγRIIB に対する抗体を変えたりして様々な実験を繰り返し、間違いなく FcγRIIB がチェックポイント治療効果にネガティブに働いていると結論している。
最終的には人間でも同じかは明確ではないが、チェックポイント治療を受けた人では FcγRIIB 細胞が減少することから、少なくとも使った抗体が FcγRIIB 陽性 CD8T 細胞の増殖を抑制していることは確かそうだ。
以上の結果から、チェックポイント治療に FcγRIIB 受容体に対する抗体を必ず組み合わせよと言うのは乱暴だろう。FcγRIIB と Fc との結合は交代のサブクラスによって違うので、これが正しいとすれば、今後は FcγRIIB 刺激性の低い Fc にして使用すればいいだろう。
臨床的には解決可能で重大な問題ではないが、いずれにせよ長年の問題には終止符が打たれた。